第9回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 易 平(い へい) 氏

論文タイトル「戦争と平和の間-発足期日本国際法学における『正しい戦争』の観念とその帰結-」

写真 易 平 氏
易 平

【略歴】

2000年北京大学法学部卒業。2003年北京大学法学院修士課程修了。2006年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。2009年同研究科博士課程修了(博士(法学))。この間、2001年から2002年まで新潟大学法学研究科へ交換留学。2004年から2006年までみずほ国際交流奨学財団奨学生。2006年から2007年まで安達峰一郎記念館国際法奨学生。2007年から2009年まで日本学術振興会特別研究員(DC2)。2009年より北京大学法学院専任講師。専門は国際法基礎理論。

【要旨】

戦争と平和の間
―発足期日本国際法学における「正しい戦争」の観念とその帰結―

本稿は、「正しい戦争」観念を中心に据えながら、日本国際法学の発足期に活躍していた国際法学者の言論活動を分析した上で、その時代の戦争観を理論的次元と実践的次元の両面から考察したものである。当時の国際法理論上、戦争を肯定する契機と、戦争を制限・否定する契機がともに含まれ、多様な戦争観が噴出していた。にもかかわらず、各類型の国際法理論が現実を指導したり、説明したり、とくに日露戦争を正当化したりしようとする際に、理論上の相違にもかかわらず、各類型の主張が奇妙なまでに一致し、相互間の境界線も曖昧になった。

そのような現象をもたらす理由として、以下のものが考えられ得る。つまり、国際法理論上、「正しい戦争」観念が終始存在しているにもかかわらず、その論理構造は危険な帰結も孕んでいる。それらの法理論が戦争の実践に応用されていくとき、そこに含まれた戦争制限意識が影を潜め、あるいは歪んだ形で現れ、その論理構造に孕んだ問題性が現実化してしまった、ということである。

実際、戦争違法化の原則が国際法上の揺るぎない地位を獲得した現代においても、戦争の法的性質と法的機能をめぐり思考を停止してはならず、むしろ法と力の交錯、正義と強権の対抗、原理性と状況性の拮抗関係の中で、常に問いかけ続けなければならない。そして、当時の国際法学者の理論が現実において変形した(あるいは変形せざるを得なかった)理由を問い詰めることによって、彼等が残した負の遺産から、有意義な教訓ないし積極的な啓発を見出すことができるだろう。そうしてはじめて、歴史は過去の重荷ではなく、未来に通ずる道を開く可能性を秘めている宝物となる。

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