基調提案3

写真 パースク・ポンパイチット

パースク・ポンパイチット  ●チュラロンコーン大学経済学部教授
〔概 要〕
   タイ社会は、つい最近まではアジアの中でも比較的伝統を重視する社会であると思われてきたが、グローバリゼーションが進む中、1985年以降の急激な経済成長とそれを引き金とした恐慌を経て、この認識に変化が生じることとなった。バンコクで実際に見られる顕著な変化は、タイ社会全体にもたらされている、より広範な変化のほんの一例に過ぎないと言える。
1997年の経済危機を契機として、タイ国民がどのような経済や社会を望んでいるのか、つまり近代化をより進めるべきなのか、それともゆとりある社会を目指すべきなのか、といった問題について、国民全体を巻き込んでの大論争が引き起こされた。この議論から得られた最終的な結論は、相反する二つの方向性を示すものであった。
一つの側面として言えるのは、経済危機を乗り越えた政府が、地元企業を活性化し、海外からの支援に対する依存度合を減らすといった、内政重視の政策を展開したことである。この政府の取り組みは、お互いに助け合って経済危機を乗り越えようという多くの国民や地域社会に支えられて成り立ってきた。
しかし、もう一つの側面としてあげられるのは、グローバリゼーションの進行に伴い、もはや問題解決にあたっては、一国の自助努力だけでは足りず、同盟国や支援国の存在が不可欠であるという認識が、タイ国民の間でかつてない程深まったということである。
最も過酷な経済危機に際して日本に支援を求めたタイは、今アジア全体を視野に置きつつ、経済危機を未然に防ぎ、適正で安定した成長実現のため、関係各国との協調体制や諸制度の構築を模索している。
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