フォーラム2011の概要

写真 フォーラム2011会場風景

プログラム
  • 日時
    2011年8月6日(土)
    8:50~16:00
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「21世紀再生戦略-安全・安心にして活力ある日本社会の実現に向けて-」
  • 内容
    コーディネーター:片山 裕
    (神戸大学大学院国際協力研究科教授)
    • ○基調提案
      ①「文化による日本の21世紀再生」
      講師: 近藤 誠一
      (文化庁長官)
      ②「超高齢社会と医療システムの変革」
      講師: 辻 哲夫
      (東京大学高齢社会総合研究機構教授)
      ③「巨大災害からの再生」
      講師: 室﨑 益輝
      (関西学院大学総合政策学部教授・同大学災害復興制度研究所所長、ひょうごボランタリープラザ所長)
      ④「産業と人間が共生する21世紀
        -福祉産業の未来-」
      講師: 関口 和雄
      (日本福祉大学福祉経営学部教授)
    • ○分科会
      第1分科会「文化と日本社会」
      座長: 片山 裕
      (神戸大学大学院国際協力研究科教授)
      第2分科会「新しい市民社会」
      座長: 山内 直人
      (大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)
      第3分科会「新しい産業社会モデル」
      座長: 林 敏彦
      (同志社大学大学院総合政策科学研究科教授・(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究統括)
    • ○全体会・討論

フォーラムでは、井植 敏 淡路会議代表理事の挨拶に続いて、片山 裕 神戸大学大学院教授の進行により4人の講師から基調提案をいただいきました。そのあと、参加者は3つの分科会に別れて、それぞれのテーマで活発な討論を行いました。

午後から行われた全体会では、初めに分科会の座長から各分科会での討論の概要について報告があったあと、参加者全員でさらに議論を深め、最後に2日間にわたる淡路会議の締め括りとして 五百旗頭 真 淡路会議常任理事より総括と謝辞が述べられ閉会しました。

◇基調提案の要旨

①「文化による日本の21世紀再生」
近藤 誠一 (文化庁長官)

日本人の持つ自然観、あいまいさに対する受容性、強い平和思想、外国文化を積極的に吸収しつつ、それを消化し洗練化していく能力は、世界に誇るべきものがある。

文化は日本再生の鍵の一つであり、必要なのは文化資源、人材や有形・無形遺産、古くから伝わる健全で素晴らしい(日本人の)思想をうまくつなぎあわせ、国の力、社会の力にしていくシステムである。戦後の社会は経済成長一辺倒で、文化を生かした心の豊かさを実現する社会システムの確立を怠ってきた。学校教育、家庭、職場等において大量生産・大量消費に合った画一化された制度と労働者を作ることにあまりにも専念し、そして、それが成功したために文化芸術を味わうチャンスや鑑賞する能力を国民に与えずに来てしまったが、それを大きく見直す必要がある。そのことが、これからの日本のシステムを作っていく主体である人間を、倫理と道徳観を持ち、幸福感を持つものにしていく鍵である。

②「超高齢社会と医療システムの変革」
辻 哲夫 (東京大学高齢社会総合研究機構教授)

超高齢社会においては介護が必要となる期間の生活の質を上げることが重要であり、従来の臓器別医療から、病気を治すだけでなく生活を支える医療(在宅医療)が求められている。

在宅医療の推進には、専門医に在宅医療の再研修を行ってグループ化し、在宅医療とバックアップ病床、看護・介護等のシステムをつなぐコーディネーターを育成する必要があり、在宅医療とケアシステムがパッケージされたときに、初めて人々は終の棲家を得ることができる。

超高齢社会とは経済発展の帰結で、経済発展によって寿命が延び、都市化・核家族化が進んだ結果、介護システムが必要になった。従って、国民の価値観を変容し、国民負担率を上げても皆が安心に暮らせるシステムを確立していかない限り、経済発展が完成したとはいえない。アジアでは急速に高齢化が進み、将来が見えない状況にある。アジア型の高齢化への対応に成功し、その先例をアジアに発信することが日本の役割である。

③「巨大災害からの再生」
室﨑 益輝 (関西学院大学総合政策学部教授・同大学災害復興制度研究所所長、ひょうごボランタリープラザ所長)

東日本大震災は巨大、広域、複合災害であり、最大級の支援が行われているにもかかわらず、個々の被災者には食事や薬が行き届かず(欠援)、人々にある種の絶望感を与えている。その背景にある日本の国土構造、社会構造を考えると、減災と共生というキーワードが引き出される。

減災:小さな人間が大きな自然に向き合うときには、空間(大きな公共・小さな公共)、時間(事前と事後)、手段(ハード、ソフト、ハート)、主体(行政、専門家、市民、企業)に対するさまざまな対策を組み合わせて被害の引き算を図っていかなければならない。

共生:これまでの人類の災害に対する考え方(祈る、逃げる、そらす、抑える)をうまく組み込んだ新しい安全な社会システムを、今回の震災を契機に構築する必要がある。自然(と共生する)の力で自然の力に向き合うこと、地域の歴史を読み込み歴史の知恵を生かすこと、科学技術を過信せず減災のために取り入れること、人間と人間が安全や平和のために協働することが必要だと考える。

④「産業と人間が共生する21世紀―福祉産業の未来―」
関口 和雄 (日本福祉大学福祉経営学部教授)

今後福祉産業のニーズはますます顕在化してくるが、それに対し供給サイドがどのように取り組むかが鍵となる。そしてどの産業においても生活、福祉というとらえかたが出てきて福祉産業化する。事業展開に際しては人材の育成や利用者の要求に忠実に応えるといったことが大切であり、生活上の課題やニーズをくみ上げて解決していくことに加え、誰もが参入して取り組めるような条件整備が必要である。また、福祉産業がさらに発展していくためには、産業政策として自由に動ける仕組みづくりを行い、制度や保険にないような新しいサービスの開発や需要を創造していかなければならない。

また、これからは新しい地域創造の役割を持った福祉産業が求められてくる。福祉産業は、地域包括ケアシステムを取り入れていくことで、地域の人々の生活に密着した、地域創造の役割を持った産業になっていく必要がある。

◇分科会での討論の概要

○第1分科会「文化と日本社会」の要点
報告者: 片山 裕 (神戸大学大学院国際協力研究科教授)

高齢者問題と文化:団塊の世代が一番文化に無縁で、趣味もゴルフや散歩程度しかない。これは政治家を含めた指導者にも共通で、日本が弱いところでもある。そこで、文化という観点から、高齢者問題にアプローチできないかという指摘があった。マーケットに任せるしかないという意見が挙がる一方で、生きがいという観点から、文化の重要性や強さを生かせるのではないかとの見方も示された。

危機で発揮される文化・芸術の力:東日本大震災後、人々の生活が困窮し、うちひしがれた状態にあったとき、文化は非常に大きな力を発揮した。それまでばらばらであった国民が真の意味でコミュニケーションできるようになる力を文化や芸術は持っている。危機のときにこそ、文化の重要性をあらためて考えるべきだとの意見が出された。また、昨今、ソーシャルキャピタルの低落が指摘され続けてきたが、東日本大震災では、他人の悲しみ、不幸、問題に無関心であった若者までがボランティア活動に積極的に参加するという行動が全国規模で見られた。それを今後に生かせる方法を模索すべきだとの意見も示された。

文化と産業の競争力:文化の内容について、政府や地方自治体が介入することは好ましくない。しかし、何らかの政策的手当は必要である。産業化に結びつける前に、まずは日本の文化の国際的比較優位を再考し、アイデンティファイする必要がある。その強みをクラスター単位で育てていくことが、広義での国際競争力の発揮や産業の競争力強化につながる。そういう観点から、政府の介入・支援がなされるべきだという議論がなされた。

城下町文化:地方には人々の生活に文化が強く根ざしており、人々がそれをよりどころにしている。地方分権の観点からも、長い時間をかけて住民が育んできた文化の力を見直す必要がある。こうした地方文化は、災害における復興力、観光資源としての力という面でも強みを発揮する可能性がある。

オープンネスとダイバーシティ:文化・コミュニケーションを通じた「共生」は重要な概念だが、それが異質なもの、とりわけ外国人や少数者を排除するようなものであってはいけない。開かれた、オープンなものでなければならないという指摘がなされた。

○第2分科会「新しい市民社会」の要点
報告者: 山内 直人 (大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)

目指すべき市民社会のモデルについて:

これからの市民社会は、Non Governmentよりは、むしろ、New Governmentという概念、つまり政府の対極に市民社会があるというよりは、その中間にあるような生活協同組合やワーカーズコレクティブといった活動、あるいは皆で負担して受益を得るという北欧型の公共のあり方もあるのではないかとの指摘があった。

阪神・淡路大震災と東日本大震災における民間の活動の違い:

ボランティアの延べ人数は阪神・淡路大震災のときより低調だが、義援金は阪神・淡路大震災を大きく上回っており、NPOへの活動支援金やネットを通じた寄付など、寄付の目的や手段も多様化している。今後ともボランティアや寄付が定着するかが注目される。

阪神・淡路大震災では、神戸を中心に都市基盤がしっかりしており、被災地の住民は公に対して対等にものが言えるような関係にあったが、東日本大震災の被災地は農林水産業を中心とした伝統的な社会が残っており、公への依存がもともと高い地域であるため、大災害に直面したときの住民のリアクションに大きな違いを生み出しているという指摘があった。

新しい市民社会と担うアクターという意味では、日本の場合、伝統的な自治会・町内会、まちづくり協議会の役割が非常に重要ではとの指摘がなされ、その役割について再認識するべきではないかとの意見が出された。

企業(営利企業)は阪神・淡路大震災でも、東日本大震災でも大きな役割を果たした。特に今回は物資の輸送面での貢献が注目された。

「市民社会」という言葉の定義について:

今回のテーマの「市民社会」という言葉よりは、「新しい共生社会」あるいは「共生社会」の方が、日本人には分かりやすく、「共生社会」は共助とつながる部分もあるので、「市民社会」よりも「共生社会」の方がふさわしいというのが最後の結論であった。

○第3分科会「新しい産業社会モデル」の要点
報告者: 林 敏彦 (同志社大学大学院総合政策科学研究科教授・(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究統括)

サステナブルな産業社会をつくる:新しい産業社会とは、次世代が中心になっていく社会であり、サステナブルな産業社会をつくるというコンセプトが極めて重要であるとの意見の一致をみた。

増税:負担を次世代に残さないよう増税も考えるべきであり、資金不足で税金を上げるのではなく、増税によって希望の持てる、もっといい国をつくろうというビジョンを示し、国民の賛同を得るというやり方が必要との意見が出された。

産業構造の転換:また、産業構造の転換が必要で、グローバリゼーションに積極的に取り組み、内向きにはソフトな産業社会をつくる。政策、行政、政治等、あらゆる分野においてイノベーションを起こして社会を動かしていくようにならなければならないとも話し合った。ソフトな産業構造への移行に際しては、医療、エコ、介護等、地域にある社会問題を需要源として、そこに制度、仕組み、産業を適合させていく。多くの先端的な企業は、既にものづくり企業からソフトを提供する企業に変貌していっているという事例が複数報告された。

地産地消:こうした新しいビジネスモデルをつくり上げていくときのポイントは、地産地消ではないかとの話になった。需要が地域に存在し、働き手も地域に存在する。食生活、健康、介護はもちろん、福祉産業もエネルギーも地産地消型になろうとしている。

人材:また、ソフト産業に求められる人材は、女性と経験を積んだ高齢者であるとの指摘もあった。家庭に入った女性の活用や、退職して地元へ戻ってきた方たちを再組織して経済特区をつくり農業生産を行う、サービス業を展開するといったことが考えられるという話が出た。

価値観を変える:新しいことを考えていくためには、価値観を変えなければならない。社会を見る場合にも、統合医療の考え方が大変ヒントになる。医学は社会生活を営む人間の健康に焦点を当てるが、現在の社会そのものに病んでいる部分がある。これに対して、ただ単に経済学で分析して答えを出し、政策を実行するだけでなく、災害が起きても壊れにくい社会をつくるなど、予防政策の概念も必要になろう。

社会に実装する方策を:いい提案やアイデアが次々出てくるにもかかわらず、社会に対して実践されていない。産業、政治、学術等、異分野の方々が胸襟を開いて忌憚なく意見交換をすることが何よりも必要であると同時に、実際に社会が良くなるよう、それを誰に、どこに働きかけていくかを考えるべきといったことを話し合いことが大切だとの意見も示された。

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