フォーラム2016の概要

写真 フォーラム2016会場風景

プログラム
  • 日時
    2016年8月6日(土)
    9:00~16:00
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「TPPから始まる大競争時代のアジア太平洋-ヒト・モノ・カネ・情報-」
  • 内容
    • ○基調提案
      コーディネーター 大西 裕
      (神戸大学大学院法学研究科教授)
      ①「奇跡のリンゴ園から見る世界」
      講師: 木村 秋則
      (東株式会社木村興農社代表取締役)
      ②「日本のものづくりとグローバル化」
      講師: 中沢 孝夫
      (兵庫県立大学客員教授)
      ③「大競争時代/大共創時代を生き抜くヒトの育成」
      講師:塩瀬 隆之
      (京都大学総合博物館准教授)
    • ○分科会
      第1分科会「TPP等新たな経済連携への対応」
      座長: 佐竹 隆幸
      (関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授)
      第2分科会「ビジネスの新潮流(ニューウェーブ)-勝ち組の戦略」
      座長: 中尾 優
      (特許業務法人有古特許事務所所長)
      第3分科会「大競争時代を生き抜くヒトの育成」
      座長: 窪田 幸子
      (神戸大学大学院国際文化学研究科教授)
    • ○全体会
      コーディネーター 村田 晃嗣
      (同志社大学法学部教授)

フォーラムでは、井植 敏 淡路会議代表理事の挨拶に続いて、大西 裕 神戸大学法学研究科教授の進行により、3人の講師からの基調提案をいただき、そのあと、参加者は3つの分科会に別れて、それぞれのテーマで活発な討論を行いました。

昼食を挟んで午後から行われた全体会では、村田 晃嗣 同志社大学法学部教授の進行により、初めに分科会の座長から各分科会での討論の概要について報告をいただき、参加者全員でさらに議論を深め、最後に2日間にわたる淡路会議の締め括りとして、五百旗頭 真淡路会議常任理事から総括と謝辞が述べられ閉会しました。

◇基調提案の要点

「奇跡のリンゴ園から見る世界」
木村 秋則 株式会社木村興農社代表取締役

肥料・農薬・除草剤などの生産資材による生産性の向上は「緑の革命」といわれ、食料を豊富にし、農家の人たちを重労働から解放してきた。その貢献は多大である。

ただし、長い時間これらを使ってきたために、あちこちにひずみが出てきているのも事実である。

今、早急に日本がアジアをはじめとする世界に向けて発信しなければならないのは、環境保全ではないかと思う。

また、日本が早急にすべきことは、硝酸態窒素濃度の規制である。ヨーロッパでは過去に不幸な事件があったため、硝酸態窒素が3,000ppm以上の農産物は厳しく規制されているが、日本にはまだ規制がない。

その一方で、野菜の栄養価が低下している。今の野菜は、昭和26年と比較して10分の1の栄養価もない。非常に残念に思う。

私が提唱する自然栽培の畑は無肥料・無農薬・無堆肥である。それでは害虫、病気、生育が心配だと言われるが、実際には一般栽培と比較して大差はない。

現在、私に賛同してくれた生産者たちが組織をつくり、自然栽培が個人的な取り組みから組織的な取り組みへと発展しつつある。

このアジア太平洋に向けたフォーラムの中で私が農家としてうたい、広げていきたいのは、安心のおける食材と環境保全を考えた農業の推進である。

皆さんと一緒に一歩前へ出るような気持ちで、アジア太平洋を一つにしてスクラムを組んでいけたらと考えている。

「日本のものづくりとグローバル化」
中沢 孝夫 兵庫県立大学客員教授

日本のものづくりとグローバル化には幾つかの節目がある。1950年代は軽工業、1960年代から1973年のオイルショックまでは重化学工業、1970年代後半から1980年代は組立加工製品、と長くは貿易摩擦の時代であった。常にアメリカやヨーロッパと経済摩擦を起こし、輸出の自主規制と外交交渉が政策の中心となっていたのである。

同時に、消費に近い場所で生産する(現地生産)ということで、1970年代末から1980年代にかけては海外展開が進んだ。

日本のものづくりのプロセスで見逃してはならないのは、先端技術よりも「工程」のイノベーションが徹底して進んでいるということである。「工程」のイノベーションとは、消費者の目に見えない部分での競争力の進化ということである。

競争力という概念を、「表層の競争力」と「深層の競争力」の二つに分けると、深層の競争力がどれだけあるか、つまり、工程管理を日常的に改善していく力の差によって、利益率や強さが違ってくる。

また、外需において、問題となるのは標準化、つまりどこに行っても通用するということである。日本と違って諸外国は標準化の力がとても優れている。今は大きな標準化を求めるのではなく、標準化の中でどうやって比較優位をつくり出すかということが問われている。

過去のような貿易摩擦から自主規制という時代は、とうに終わり、争いの土俵が変わっている。そこには目に見える争いと目に見えない争いがあって、日本が得意とするのは目に見えない部分での争いである。全てにわたって日本が勝つことはできないので、得意技を伸ばしていきたいものだ。

「大競争時代/大共創時代を生き抜くヒトの育成」
塩瀬 隆之 京都大学総合博物館准教授

これからは多文化共生の時代であり、人材不足になるといわれている中では、多様な候補者たちにありのまま、それぞれの特性を生かして働いてもらう、というインクルーシブなマネジメント力が一番求められる。

日本では、同質性の高い集団の中で右に倣うという練習しかしてこなかったので、多文化の中で違いを認め合う力が、確実に欠けている。その意味で、差異を解消するのではなく、認めて生かすような包摂的な組織デザインが必要と考えられる。

また、状況の変化に伴い、身に付けている力が使いものにならなくなるとき、あるいは方向転換を迫られたときに、適応していく力が重要になる。

しかしながら、日本では、キャリアデザインを会社に任せきりで、自分で自分のキャリアをデザインする練習が少ない、それを評価できるロールモデルがないという問題がある。

さらに日本では、終身雇用が徹底されていた、社内研修が充実していたことから、25歳以上になって大学等で学び直す人が少ない状況があり、そのため会社が視野に入れている知識しか手に入らない、新しい分野に人が流れないという問題がある。

そうした点を考えると、どうしても新しい技術に対するおびえ、恐れが生じてくる。

しかしながら、子どものうちからロボットや人工知能に触れていると、そのような恐れは全くない。そこで、子ども自身がこれらを体験的に学べる環境が必要であると考える。

これからの大競争時代には、ずれや違いを解消するのではなく、共にそれを価値に変えるようなコ・クリエーションが求められており、そのための力を子どもたちに身に付けさせるためにも、アジア太平洋という大きなネットワークの中で一緒に子育てをして、ビジネスをして、教育をしていくことが重要である。

◇分科会での討論の概要

○第1分科会「TPP等新たな経済連携への対応」
報告者:佐竹 隆幸(関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授)

グローバル化の中でメガコンペティション(大競争)の時代であるということで、大きく二つの論点があった。

まず、TPPという制度を日本あるいはグローバルに導入するときに、どういうことが起こり得るのかということが一つの論点になってくる。

もう一つの論点は対中問題である。中国がTPPに入るのかどうか、中国経済そのものの動向も含めてどういう流れになってくるかということだ。

加えて、世界的な動向として、「まさかこんなことが」と思うようなことがイギリスやアメリカで起こっている。

従来、グローバル化というのは大きな善であったはずだが、今はグローバル化に賛成する人と反対する人の、内向きの論理と外向きの論理のせめぎ合いが起きている。そのような中でのTPPであり、中国問題である。

分科会では、最初に、何名かの方からTPPの導入には賛成であるとの意見が示された。

日本では高度経済成長期が終焉を迎えた時期と相まって、エネルギー問題や公害を代表とする環境問題や労働力不足問題といった様々な高度経済成長の弊害が出てきた。しかし、日本の産業あるいは経済は公害環境問題、省エネルギー、労働力不足に対応していけるようなシステムを取り入れ、1980年代に安定成長期を迎えた。

同様に、TPPも大きな制度上のイノベーションであって、それに対応できるような日本の産業あるいは経済、さらにはヒト・モノ・カネの移動が重要となってくると考えられる。

国際化の流れは関税等の動きで拒否することができるが、グローバル化におけるヒト・モノ・カネ・情報の流れというものは、いくら止めようと思っても、勝手に入ってくるものは入ってくる。

TPPも、短期的に拒否することはできても、中長期的には受け入れざるを得ない。むしろそれを積極的に活用することで日本経済の新たな方向性を模索ができないかということで、TPPをイノベーションにつなげるという議論になる。分科会の皆さんの発言にはそういう意図が含まれていた。

世界で起きている「まさかこんなことが」という出来事や中国への対応については、宮本先生からご発言いただいた。中国を仲間に入れるのかどうか、あるいは中国型の経済発展の方法とはどういうものなのかといったことは、これから国際経済あるいは国際政治上の大きな問題になってくると思われる。

TPPの枠組みを含め、世界第2位の経済大国である中国を抜きにしてはなかなか考えにくい。政治的な問題があるので、アメリカにも日本にも受け入れ難いところがある。しかし、中国を含めた東アジアは大きな可能性を持っているので、それを生かしていくことは、日本経済あるいは日本の安定につながる。

また、林先生先からは、安全保障と経済の話をいただいた。安全保障は2階建ての建物の1階、経済力は2階に当たるということで、やはり土台がしっかりしないと経済力は発揮できない。同時に、経済力がある程度大きくなると、それが重しとなって安定した国家運営ができるというお話であった。

まさにそのとおりで、その二つを車の両輪として今後の日本の将来、あるいはグローバル化における日本の位置付けを検討した部会であった。

○第2分科会「ビジネスの新潮流(ニューウェーブ)-勝ち組の戦略」
報告者:中尾 優(特許業務法人有古特許事務所所長)

冒頭、座長から新潮流の要素として、Internet of Things(IoT)、人工知能(AI)、ビッグデータ、クラウドコンピューティングといった「技術」、ドイツのIndustrie4.0、アメリカのIIC(Industrial Internet Consortium)、日本のIoT推進コンソーシアム、デファクトスタンダードといわれるiOS、Androidといった「基準化・標準化」、シェアリングエコノミー(共有型経済)やFinTech、越境EC(Eコマース)といった「ビジネスモデル」、そして最後に自動運転車やロボットといった「製品」を挙げさせていただいた。

また、シェアリングエコノミーの具体例として、宿泊施設のマッチングサービスであるAirbnb、タクシーのマッチングサービスであるUber、ペットホテルの代替サービスとなるDogVacay、家事や日曜大工の作業をアウトソーシングするTaskRabbit、住宅の貸主と借主の信頼関係を一括管理できるProve Trustなど、アメリカ企業が実施主体となって2008年以降相次いで登場しているウェブサービスを紹介し、皆さまからご意見をいただいた。

「勝ち組の戦略」の議論とは、特定の企業がなぜ勝ち組になったかを分析するのではなく、どのようなことに気を付け、考えれば勝ち組と言えるのか、あるいはビジネスチャンスが巡ってくるのかを議論した。

新潮流の要素には、情報技術やセンサー技術等の進歩によって既存の問題が解決できるようになってきたという側面もあり、必ずしも新しいビジネスを起こすということではないという話があった。

また、無駄な情報の峻別が重要であるということ、地域の中小企業はこれらをツールとして利用することにより、競争優位を得て発展のきっかけをつかむことができるという議論があった。

それから、メンバーから、自身の事業を進めていく上で、お客さまのニーズ(要求)に応えていくうちに、特に意識することなく自然にIoTという新潮流に乗っていたという話があった。

それに絡んで、ニュービジネスではやはりユーザーの需要分析が非常に重要であり、日本企業はアメリカやヨーロッパに比べてその点が弱いのではないか。他方、ロボット制御技術については日本は他国により非常に優位にあるので、そこに注力すれば世界に十分伍していけるのではないか。そして、新しいビジネスモデルが出てくる中で、やはりアントレプレナーや敗者復活を許す風土が日本には必要であるといった意見があった。

また、新しい技術はサービス産業に非常に貢献するが、規制の問題等も踏まえ、日本の古くからの甘えの構造というか、さまざまな商取引の慣行も変わっていかなければならないのではないかという指摘があった。

そして、通信技術が根幹を成しているので、セキュリティリスクは常に考えておかなければならないという指摘もあった。

さらに、日本はサービス産業が欧米に比べて弱いのではないかという意見や、日本が課題先進国として原子力発電等の課題を解決していくことで、それがビジネスチャンスにつながっていく可能性があるのではないかという指摘もあった。

現実に、メンバーの中には高齢者にスマホを提供し、それを利用してサービスを利用してもらうという事業を積極的に進められている方もいた。
以上が前半の議論である。

後半では、まず日本の収益構造の新潮流を紹介して、皆さまから意見をいただいた。

日本の貿易収支は赤字となっている一方、所得収支では20兆円を稼いでおり、さらに知財関連収支は4兆円を超えている。その4兆円の収益のうち2兆円は輸送用機械器具製造産業におけるロイヤリティ収入であり、これは自動車産業がプラザ合意を契機にライセンス収益をビジネスに組み込んだことによって、日本本社の収益構造が転換したことによるものである。

こういった日本の収益構造について、例えば日本企業の現地法人から中国等の海外の完成品メーカーに流れていく中間財の収益は統計上の数字に表れない、所得収支としてしか日本の国富には反映できないという指摘があり、今後、ビジネスモデルを組み上げるときには、輸出入以外の点にも留意していけばいいのではないかという話になった。

○第3分科会「大競争時代を生き抜くヒトの育成」
報告者:窪田 幸子(神戸大学大学院国際文化学研究科教授)

基調提案をされた塩瀬先生から最初に基調提案の補足という形で発言をいただき、それに対して皆さんから多様なご意見をいただいた。

その中で、果たして企業が勝ち抜くことが本当に幸せなのか、人間として何が満足なのかということを考えなければいけないのではないか、という指摘があり、それぞれの立場から様々な意見があった。

まず、分科会で非常にはっきり出てきたのが、大学教育に対する強い批判である。教員の授業の分かりにくさ、日本の大学教育の魅力の薄さを改善していかなければいけないのではないかという、大学教員には非常に耳の痛いものであった。実際、大学の教員というのはコストを考えざるを得ない立場にある。しかも学生の数は減っていくということで、強い言い方をすると大学はもう絶望的な状況にあるとも言える。

そのような日本の大学を取り巻く非常に困難な状況下で、一体どのように次世代を育てていけるのかということについて、かなり活発な議論があった。

留学生の受け入れと日本人学生の送り出しについても様々な意見があったが、その中で、実はアジアでは日本の大学への留学が注目されているという指摘があった。特にトップエリートではなく中間層の学生たちにとって、日本の大学は学費も安く、システムが整っていて、就職につながる可能性があるという魅力がある。しかし、それにもかかわらず、行政は日本の大学にハーバード大学等のトップと競うことばかりを押し付けているという批判があった。また、必ずしも欧米の大学、特にアメリカの大学のシステムは良いわけではなく、影の部分もあるという指摘もあった。

もう一つの論点として注目されたのが、塩瀬先生の提示されたインクルーシブという概念である。インクルーシブというのは確かに感銘を受ける良い考え方であるが、企業を運営する経営者にとってはなかなか難しいところがある。だからこそ、経営者自身がインクルーシブに対して心を開いていく必要があり、これから企業が直面していく問題ではあるが、実感として、大きなハードルなのかもしれない、という意見があった。

しかし一方では、現在の日本はダイバーシティというものを考えずにはやっていけない、いずれにしろやらざるを得ないという指摘もあった。

また、基調提案で塩瀬先生が正方形の話を出されたが、これは非常にインパクトがあり心に残ったという意見があった。きれいな正方形を並べるのではなく、モザイクアートのように集団をオーガナイズするというイメージは非常に的確だという感想を持ったということだ。

ただ、現実には集団の中でパーツほど早く落ちていくということがある。そこをうまく補充していくシステムを考えることも、同時に必要だという指摘もあった。

それから、特に女性はまだ職業選択肢が非常に狭いという意見もあった。

それに対して、「ミニフューチャーシティー」のような形で子どものころから職業経験をしていくことは、若い世代の職業選択のイメージが広がっていくことにつながるということで、非常に可能性を感じられたという意見もあった。

本当に多様な意見があったが、現実に次世代を育てていかなければいけない中で、なるべく若者の視点、特に子どもたちの視点そのものを生かしていくには、インクルーシブという観点での気付きが、われわれに大きな可能性を与えてくれるのではないかという意見が大多数だったと思う。

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