フォーラム2019の概要

写真 フォーラム2019会場風景

プログラム
  • 日時
    2019年8月3日(土)
    9:00~16:00
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「21世紀のアジア太平洋社会の展望」
  • 内容
    • ○基調提案
      コーディネーター 田中 裕子
      (株式会社夢工房代表取締役)
      ①「社会が医療を担うための技術革新」
      講師: 杉本 真樹
      (外科医/Holoeyes株式会社COO/帝京大学特任教授)
      ②「すべての人が誇りを持って生きられるユニバーサル社会の実現に向けて」
      講師: 竹中 ナミ
      (社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)
      ③「メガコンペティション時代を生き抜く地域中小企業の取り組み」
      講師:有本 哲也
      (株式会社デジアラホールディングス代表取締役会長)
    • ○分科会
      第1分科会「安全・安心社会の課題と展望」
      座長:永吉 一郎
      (株式会社神戸デジタル・ラボ代表取締役)
      第2分科会「共生社会の課題と展望」
      座長:窪田 幸子
      (神戸大学大学院国際文化研究科教授)
      第3分科会「グローバル社会の課題と展望」
      座長:三重野 文晴
      (京都大学東南アジア地域研究研究所副所長・教授)
    • ○全体会
      コーディネーター 佐竹 隆幸
      (関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科長・教授)
    • ○総括と謝辞
      五十旗頭 真
      (ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長)

フォーラムでは、井植 敏 淡路会議代表理事の挨拶に続いて、田中裕子 株式会社夢工房代表取締役の進行により、3人の講師からの基調提案をいただき、そのあと、参加者は3つの分科会に分かれて、それぞれのテーマで活発な討論を行いました。

昼食を挟んで午後から行われた全体会では、佐竹隆幸 関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科長・教授の進行により、初めに分科会の座長から各分科会での討論の概要について報告をいただき、参加者全員でさらに議論を深め、最後に2日間にわたる淡路会議の締め括りとして、五百旗頭真 ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長から総括と謝辞が述べられ閉会しました。

 

◇基調提案の要点

「社会が医療を担うための技術革新」
杉本 真樹(外科医/Holoeyes株式会社COO/帝京大学特任教授)

現在、Society 4.0(コンピュータの出現による情報化社会)からさらなるデジタル革新、イノベーションを通じて人間を中心とした超スマート社会であるSociety 5.0へ移行しつつあります。こうした中、あらゆる個人医療情報はデジタル化され、健康診断から医療行為に至るまで広く共有されています。特にレントゲンを始めとする画像情報は、VR仮想現実/AR拡張現実/MR複合現実などの技術を活用し、立体的、空間的に表現され、医師の診断治療技術の向上やシミュレーション、トレーニングなどに活用されています。また、仮想空間を利用した遠隔医療や、地域医療支援でも、ユーザーの実体験を直感的に共有することで、新たなコミュニケーションを生み出しています。さらに、バーチャルとリアルを融合して、人を中心とした技術に基づく新しい社会を作っていくことになります。医療を担うのは医者や病院だけではありません。社会が医療を担うためには、皆さんも情報を自分から提供したり、共有したりすることが必要です。そして、何よりも意識を高め、技術に触れていくことが重要なのです。

「全ての人が誇りを持って生きられるユニバーサル社会の実現に向けて」
竹中 ナミ(社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)

プロップ・ステーションでは、障がいのある人たちの可能性に着目して「チャレンジド」という言葉を使っています。「チャレンジドをタックスペイヤーにできる日本」をキャッチフレーズに掲げ、30年前からコンピュータを使って一人一人に眠っている働く意欲と働く力を世の中に発揮してもらうための活動をずっと行っています。その背景として、医者から「一生ベイビーのままですよ」と言われるほどの大変重い脳の障がいを持ち、現在46歳になる自身の娘(マキさん)の誕生があります。娘のおかげでたくさんの人たちと出会うことができたのです。私はよく「マキちゃんは障がいが重いからコンピュータなどさわれないのに、なぜコンピュータができる人のことをそんなに応援しているの?」と言われます。そこには、母として、娘を残して安心して死にたいという究極のわがままがあります。そのためには、社会がそういう方々に温かい目を持って、娘のような本当に経済的な能力を持つこともできない人を支えられる国家の経済状況も必要になります。そのため、「チャレンジドをタックスペイヤーにできる日本」というテーマを掲げ、みんなで弱い人も限りなく支えていける国でありたいと思うのです。

「メガコンペティション時代を生き抜く地域中小企業の取り組み」
有本 哲也(株式会社デジアラホールディングス代表取締役会長)

神戸市の兵庫区で製材所を営む家系に生まれ、祖父から父へと時代の変化とともに家業も製材所からアルミサッシなどの建材販売へ事業承継を行ってきました。自身の代になり、2000年に現在の会社を設立しました。インターネットを介して全国にウッドデッキやカーポートなどのエクステリア建材を施工とともに販売する新たなビジネスモデルである「エクスショップ」や「お庭・外構・イエソト」の提案から工事まで行う「ガーデンプラス」の全国展開を行っています。今では、本社を六甲アイランドの神戸ファッションマート内に置き、従業員200名弱、売り上げは直近で106億円にまで成長しました。

また、家業から企業へと変化する中で、多くの葛藤がありましたが、新卒採用、人材育成により、若い人材が成長し、チャレンジできる環境整備を心がけています。さらに厳しくなるメガコンペティション時代においても、当社の一番の強みである全国500社を超える施工事業者とのネットワークを通じて、更なる市場拡大を図っています。

◇分科会での討論の概要

○第1分科会「安全・安心社会の課題と展望」
報告者:永吉 一郎(株式会社神戸デジタル・ラボ代表取締役)

医療界にデジタル最新技術を実用的に導入されて成功されている杉本先生のお話が冒頭にあったので、医療の現場と可能性について非常に活発な議論が繰り広げられました。杉本先生が基本的な考え方として示された日本政府が提唱しているSociety 5.0は、仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立させるような未来社会であると定義されています。安心・安全な社会づくりにおいて医療やヘルスケアの果たす役割は非常に大きく、議論の視点もそこに集中していきました。

まず、話題の提供として杉本先生から追加でお話があったのは、医療を医師と病人の関係性だけで見るのではなく、健康な人の立場から見てみると景色が変わるということです。例えば、健康診断データは基本、健康な人たちのデータですが、MRI画像で普段なら異常なしと判定されるような小さな血管のコブや狭くなっている箇所について、数年後にそれがもとで致命的な病気になる人が仮に多ければ、小さな変化でも将来的には致命的な原因になると理解できます。例えば健康診断の判定をもっと細分化して、天気予報のように予測できるようになれば、健康寿命が延びて、クオリティ・オブ・ライフを担保できる。そのようなデータ共有は、今後の医療に非常に大きな可能性があるということです。

そこから参加者の皆さんからいろいろな発言があって、「日本の国民皆保険はどうなのだ。本当に必要な人が十分な診療ができないような不便な面もあるのではないか」という話もあったのですが、杉本先生からは、進んだオンライン診療では、ちょっと気分が悪い、ここが調子悪いというようなことを直接医師に言えるような仕組みが実現していて、毎日、少し調子が悪かったら医者のところに駆け付けるということではなく、バーチャルに診療行為が得られることが技術的にも社会的にも可能になっているというお話がありました。

また、その発展系として一つの大きな可能性があるのは、5Gという来年、日本でも実用化される通信システムです。今の100倍以上のスピードで、遅延もなく大量に映像がリアルタイムに送れることなどを利用して、その場に医師がいなくても、例えば遠隔であったとしても、バーチャルのゴーグルをかければ、あたかも目の前で先生が診療してくれるということを、いろいろな立場の方やいろいろなところに住んでいる方に直接提供できるようになっているそうです。テレビを見ているときのように一方通行ではなく、あたかも人間と人間が会話をしているような状況で診療行為が現実にできるようになっているということです。

その他にも、例えば、ホテルも人がたくさん集まってくるところです。そういうところで健康や医療に関するサロン的なものを展開することで、これからのホテルのありようを変えていけないかという話に関しては、実はそういう場所でできることはどんどん増えていて、血圧や一般的な健康データだけではなく、ポータブルで心電図まで取れるような仕組みすら今はあるということです。そうなってくると、現状では温泉の脱衣所で測定できる体重や骨強度など一般的なものだけではなく、自分たちの健康の未来を深掘りできるような施設が可能ではないか。それに関して、医者だけではなく、薬局にいる薬剤師が、医療行為の手前のヘルスケアチェックとしてかなりのことが適法の範囲でできるようになっていて、これからそういうことも増えてくるのではないかという話もありました。

○第2分科会「共生社会の課題と展望」
報告者:窪田 幸子(神戸大学大学院国際文化研究科教授)

まず、皆さんにこれまでのお仕事の中で、共生に関わるどのような経験があったのかをご紹介いただきました。例えば、自分が見てきた世界の中で、多文化が共生していくということが起きているけれど、それ以上に異なる文化が均質化する現状が見えてきているとご紹介くださる方もいらっしゃいました。また、企業のトップとしてのご経験の中で、かつて1960年代、1970年代に、いかに異文化の中で異なるものが多かったか、それに比べての現在の違いということで経験をご紹介くださる方もいらっしゃいました。

また、多文化共生だけではなく、ジェンダー平等の問題もやはり共生の中では非常に重要なのではないかというご指摘もありました。オリンピックの翌年の2021年度に行われるワールドマスターズゲームズに関わっておられる方が参加されていまして、「まさに今、インクルーシブな大会をイメージして動かしている」ことをご紹介いただきました。

自分の企業の中で外国人をたくさん雇用している方からは、従業員に対して食や宗教の違いについての教育を促しているというお話がありました。また、ご自分の企業の海外での経験の中で、異文化に対する日本との意識の違いが1980年代から既にあったのではというご指摘や、日本の大学の力が低下している中で東南アジアから入ってくる人材の関係性をもう少し生かしていくべきだという意見もありました。

県の行政の立場からは、多文化共生に関わってきた方からのご意見もあり、研究者の立場から、現在の研究の中で次世代の共生モデルにインフラの側面から関わっているというご経験をご紹介いただきました。

このように「共生」というキーワードを出すと、本当にごく一部をご紹介しただけでも、非常に多様な経験と見解があらわれます。そもそも「共生」とは何をイメージしているのかという問い掛けもありました。基本的にはもちろん、インクルーシブな社会、あらゆる違いをインクルーシブしていくということですが、その中で障がい者や外国籍の人々、シニアをはじめとする年齢的な違いやジェンダー、こういうものをインクルーシブ社会としてまとめていかなくてはいけない。例えば障がい者については今朝の基調提案でもあったように、実際に障害者差別解消法が日本で導入されていますし、外国籍の人々については入管法が改正され、今後5年間で約35万人の外国籍の人が日本に入ってくるだろうと言われています。こういう全体のことを見て、21世紀のアジア太平洋社会における共生ということを考えいかなくてはいけないだろうということも議論されました。

そもそも「共生」という言葉は非常に日本独自の言葉で、「多文化共生」という言葉が一般に使われるようになって随分長いですが、この英訳はないのです。英語圏ではこれは普通、multiculturalism(多文化主義)と呼ばれますが、日本では「主義」という言葉を嫌いで、「多文化共生」が一般的な用語になっています。そして、参加者の中にはこの「共生」という言葉をむしろ訳さずに、ローマ字でKyoseiと書くということをご紹介してくださった方がいました。これは日本的な多文化共生の在り方として示唆的だったのではないかと思います。ある意味では、日本型の多文化との共生に可能性があり、それを将来的に進めていかなくてはいけないということだと思います。

21世紀のアジアから日本に向かって入ってくる人々と、どのように付き合い、どのようにインクルーシブにしていくのかということについては、課題が非常に多く、今回の時間では十分に語りあうことはできませんでした。ただ、最後に強く皆さまから言われたのは、その中でも中国との共生がこれからの日本にとって、経済的にも、軍事的にも、文化的にも重要なポイントになるだろうということでした。

○第3分科会「グローバル社会の課題と展望力」
報告者:三重野 文晴(京都大学東南アジア地域研究研究所副所長・教授)

最初に、特にナロンチャイ先生のマクロの流れの問題をもう一度私なりに整理して、議論の守備範囲を仮に示しました。恐らくは二つあると大きな整理をしています。

一つは、技術革新、デジタル化の波です。この問題が21世紀に入ってはじまり、2010年代以降、ますます加速しています。それに対する国や地域、個人、企業の対応が何であって、その結果どこにたどり着くのかという見通しについての問題が一つです。その点では有本先生が報告されたものが素晴らしい一例でした。取り引き費用が急速に下がったことによって、規模の小さな企業がネットワークをつなげて、顧客への働きかけも含めて、大きな市場に出ていけるという環境に変わって、それを生かされている例だと捉えています。

もう一つは、自由貿易体制の揺らぎとでもいいますか、日本やASEAN(東南アジア諸国連合)諸国、中国が恩恵を受けていた自由貿易体制が、大きなインバランスのもとで、耐えられなくなりつつある、それが今後どうなっていくかということです。それは、デジタル化の技術革新が本格化する少し前の時期、2000年代の中国の成長が背景にあって、さらにそこに最近の技術覇権を巡る対立が入ってきているという、二重の構造になっています。中国の権威主義的な政治体制がこのデジタル化の技術革新と意外な親和性を持っているという見方もでき、一方で、ポピュリズムに見られるように民主主義の側で揺らぎが起きている。その場合、中国のような体制の下で技術革新が起こっていくことについて、そうなのかそうでないのかという問題と、そうあるべきかどうかという問題があります。これらを議論の焦点として座長として最初に整理してみました。

それに対して多くの方々から、その後、1時間半以上にわたりたくさんの議論を頂きました。それぞれをご紹介する時間的余裕はありませんので、私がいろいろな議論を集約してお示ししたいと思います。三つほどにまとめます。

一つ目は、シンポジウムとフォーラムの最初の講演であまり出てこなかった問題です。そもそもインバランス(不均衡)が起きているのは通貨の問題があるからで、今、FacebookがLibraを出しているように、デジタル技術革新によって通貨そのものが収束していくような方向に遠い将来にはなるのではないか、それが一つの不均衡の解決になるという提起がありました。また、自由貿易体制の危機が、成長の中で起きてきた富の格差の問題と結び付いており、それは国内の問題もあれば世界の問題もあるわけですが、富の再分配のシステムを、中間層の安定化とも関係してどうにかしていくことが大事だろうという意見が複数ありました。

二つ目に、日本やアジアの発展、アジア太平洋全体の貿易や経済の構造については二通りの見方があり、さまざまな意見が出ました。一つは、インドや中国、ASEANを中心とするデジタル技術革新のスピードが予想以上に速くて、極めて優位であって、それは先進国よりもはるかに深度の深いものでもあり、経済の構造そのものが根本的に変わりつつある、という見方がいろいろな角度から示されました。ナロンチャイ先生の記念講演で、東太平洋と西太平洋が分離していくという指摘がありましたが、それは新世界のアジアが、むしろ技術的にも優位を持つような方向になっていくことが可能性としてはあり得る、ということを前提にあると仰っているのかと思います。

他方、この観点についての全く別の見方は、やはり原点に戻るべきだというものです。特に製造業について言えば、日本型の、地域や文化社会の構造にしっかり合わせていくような形での製造業の構築、その上でのサプライチェーンの形成はまだまだ強みを持っているし、あるいは、一巡してもっと強みを持ち直す可能性もあるだろうということです。それから、日本の立ち位置についての問題につながってきますが、あまり原理原則を言わない、ニュートラリティ(中立性)というものがそもそも日本の立ち位置であって、そのような日本のやり方のレピュテーション(評判)をじっくり守っていく。その点日本はまだまだ競争力を持っているものなのだという議論が、事業の具体例を含めてたくさんありま した。

三つ目は、そういうことを全て統括する形で、経済発展や資本主義の在り方というものが、そもそも格差を生み出すような構造なのだということです。そういう認識が必要であって、不均衡こそが成長の源泉だったのだから、不均衡そのものを個別に取って見るより、もっと鳥瞰的にシステムそのものを考えてみるべきだろう。つまり、技術革新が例えば通貨の構造を根本的に変えて貿易の不均衡が解消してくるような見通しもあり得るかもしれない。そのような観点も今後、21世紀のアジア太平洋のグローバル社会の課題と展望を考える上で大事だろうということです。

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