基調講演1

シンガポールにおけるガーデン・シティの誕生・発展・管理

写真 レオン・チー・チュウ

レオン・チー・チュウ  ●シンガポール国立公園庁副長官

マラヤ大学植物生理学科で博士号を取得。1983年、シンガポール植物園研究員として旧公園・レクリエーション部に勤務。1990年、国立公園庁設立時に同局副部長に就任。公園・レクリエーション部との統合時(1996年)、 副長官に任命され(専門サービス部担当)、2000年4月以降公園管理部を所管。自然保護に関するシンガポール緑化計画ワーキング・グループ 及び『2001 Concept Plan Review』の自然保護検討委員会の会長も務めている。


シンガポールにおいて、1960年代の高度成長に伴う開発ラッシュの時に全島規模の植樹運動が起こり、これが「ガーデンシティ」誕生のきっかけとなった。この運動が成功したのは、(1) 明確なビジョンの提示とリー・クアン・ユー首相自らのトップダウンによる支援、(2)「ガーデンシティ」に対する国民の関心が薄れないようにするための種々の取り組み、(3) 国立公園法 をはじめとする各種の法的規制による植栽の確保等があげられる。例えば、高速道路には、4.5mの緑地帯を、また、人口1000人に当たり0.8haの公園を確保することが義務づけられている。
 一方で、シンガポールに残された自然保護の観点から、国土の5%を自然地区として保存するなど、国民が本物の自然を楽しめ る場所の確保にも力を注いでいる。また、「ガーデンシティ」化計画を実施する際、技術的・学術的支援の中心的な役割を果たしたのはシンガポール植物園であったし、植物園が設立した園芸学校によって人材育成や国民への教育活動が繰り広げられた。
 成功した事例として、地域の学校や病院、市民団体が公園の一部の管理を受け持つ「公園里親制度」や国立公園庁のスタッフがボランティアとなり、地域の住民に興味深い樹種とか歴史的に重要な自然の特徴を説明するガイドツアーがある。これらの施策が功を奏し、屋上緑化など民間開発レベルにおいても率先した緑化活動が繰り広げられ、今では官民あげて緑豊かなまちづくりに取り組んでいるのである。
 今後の人口増に伴う都市化の進展により環境破壊の懸念があるが、シンガポール国民の「開発を犠牲にしても公園と緑地がほしい」という強い思いがある限り、緑豊かな将来は約束されるだろう。
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