メッセージ

「アジア太平洋フォーラム・淡路会議2001に寄せて」

写真 川口 順子

川口 順子  ●環境大臣

1965年東京大学教養学部教養学科国際関係論分科卒業。同年通商産業省入省。1972年 エール大学経済学部大学院修士(Master of Philosophy取得)。1990年通商産業省通商政策局経済協力部長。同年8月外務省在アメリカ合衆国日本大使館公使。1992年 通商産業大臣官房審議官(地球環境問題担当)。1993年9月サントリー株式会社常務取締役。一貫して生活環境部を担当。2000年7月環境庁長官就任。2001年1月 環境大臣就任。その他主な履歴として、行政改革推進本部規制改革委員会委員、文部省中央教育審議会委員、文部省大学審議会委員、 経済同友会特別委員、国際交流基金日米センター評議会評議員、日米欧委員会日本委員、(財)日本国際交流センター理事ほか。


アジア太平洋フォーラム・淡路会議2001が、「アジア太平洋の持続可能な発展と環境」をテーマに、盛大に開催されますことを、心よりお慶び申し上げます。
 アジア太平洋地域は、経済的、社会的、自然的に極めて多様な地域であります。世界人口の4割を擁するだけでなく、世界で貧困にあえぐ人々の実に4分の3が偏在しています。一方で、インドや中国をはじめ、世界的に見て経済発展の大きな可能性を有する地域でもあります。このことは、また、地球環境に大きな負荷を与える潜在的な可能性を有していることでもあります。
 こうしたアジア太平洋地域において、持続可能な発展を実現するための方策を検討することは、この地域だけでなく、地球規模の環境問題を考える上で、大変重要な取り組みであります。
 その意味でこの会議は、誠に時宜を得た意義深いものであり、主催者のご努力に心から敬意を表する次第です。本日は、私にも講演の機会を頂戴し、「『環の国』づくりとアジア太平洋」というテーマでお話させていただくのを大変楽しみにしておりました。しかしながら、公務により欠席せざるを得ないこととなり、私自身、誠に残念に存じます。
この場をお借りして、予定しておりました講演の一端をご紹介申し上げることをお許し願いたいと存じます。
 人類の歴史は数百万年と言われていますが、その歴史の中で人類は今までに2回、人類社会を大きく変える「革命」と言うべきものを経験してきました。
 第1の革命は、農耕と牧畜の開始による革命です。これにより、人類は、自然のバランスの中で狩猟採集を行っていた生活から、自然本来の生産力を上回る余剰を生み出し、食糧の安定供給を可能としました。しかし、一方で、自然のバランスを崩し、土地の荒廃など様々な環境破壊が生じることになりました。メソポタミアをはじめ、古代文明の衰退には環境問題が関わっていると言われています。
 第2の革命は、産業革命です。石炭からエネルギーを取り出すことによって、人類は経済活動を飛躍的に拡大させることが可能になりました。しかし、19世紀のイギリスで既に大気汚染による被害が生じ、20世紀には世界中で公害問題が深刻化してしまいました。さらに、化石燃料の燃焼に伴い発生する二酸化炭素による地球温暖化が人類にとって最大の課題となっています。
 これら2回の革命は、結局のところ、自然のバランスを壊す力によって繁栄を達成したものです。そのため、必然的に環境破壊を伴ったものでした。
 20世紀までのこうした潮流は、改める必要があります。21世紀には、自然のバランスを壊すことなく、むしろ自然を回復するような形で人類の繁栄を追求していかなければなりません。そうしなければ、人類の生存基盤である地球生態系が危機に瀕することになります。 これは人類にとって喫緊の課題であり、これまで人類が経験した2つの革命とは全く別 の方向への大転換になります。その意味で、第3の、そして永続的な人類の発展へ繋がるという意味で最も輝かしい革命と呼ぶべきものでありましょう。
 私は、こうした取り組みを進めるために、『環の国』づくりという構想を提唱いたしました。『環の国』の「環」には、環境の「環」の字をあてて環境や循環を意味しますが、同時に車輪の「輪」の字や人の「和」、平和の「和」とも音を同じくしており、回転や協力・融和という意味も込めています。
 人間一人ひとりが差し出す環境保全のための心と努力を基本的な要素として、人間同士が、地域内、国内はもとより、国境を越えて相互に協力し、また、自然との共生の中で、将来にわたって持続可能な社会をつくるということが、『環の国』づくりの目指すところです。人類の文明を維持しながら自然のバランスを壊さないためには、人工の物質とエネルギーの流れを自然界からの収奪と廃棄という一方通行のものではなく、自然から得たものは自然に戻し、人工的に生産されたものは出来る限り廃棄せずに、人類社会のなかで利用する循環型の社会『環の国』をつくらなければならないと考えております。
 このような『環の国』づくりを政府一丸となって進めるために、今年の2月に、『環の国』の基本的なあり方や実現に向けての施策を検討することを目的に、内閣総理大臣の主宰の下に、全閣僚と10名の有識者で構成される「21世紀『環の国』づくり会議」が設置されました。7月には報告書がとりまとめられ、5つの基本的方向が示されました。
 第1は、地球と共生するための「地球の環」、第2は、環境産業革命を目指した「環境と経済の環」、第3は、ゴミゼロ作戦により循環型社会の実現を図る「物質循環の環」、第4は、自然と共生する社会実現のための「生態系の環」、そして第5は、パートナーシップによる実践のための「人と人との環」です。
 ここでは、細かな内容はご説明いたしませんが、今後は、報告書に示された方向にそって様々な施策を進めていきたいと考えております。  さて、直近のホットな話題として、国境を越えた『環の国』づくりとも言える、先月、ドイツのボンで開催された「気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)再開会合」の概要を簡単にご報告いたします。
 今回の会合は、昨年11月オランダのハーグで開催されたCOP6が合意に至らず中断されたことを受けて、1997年に京都で開催されたCOP3で合意された京都議定書を実施するためのルールを決める重要な会議でした。
 19日から23日には閣僚レベルの会合が行われ、私は日本政府代表として交渉にあたりました。会議の終盤は、2日間の徹夜となり、交渉は難航を極めました。最終的には、京都議定書のいわゆる中核的要素に関する基本的合意がまとめられ、この合意は「ボン合意」と名付けられました。このことにより、京都議定書の2002年発効に向けた国際的な気運が高まり、大きな成果 が得られました。但し、ボン合意を踏まえた細かい規則の作成については、途上国支援問題のように合意がされた部分もありましたが、今回の会合ではすべてを終了することが出来ず、10月下旬からモロッコのマラケシュで開催されるCOP7に持ち越されることになりました。
 我が国としては、2002年の京都議定書の発効を目指し、COP7までに最終合意が達成されるよう、引き続き全力を尽くす覚悟であります。 さらに、我が国として、6%削減という京都議定書の目標を達成することが極めて重要であり、そのための国内制度の構築にも引き続き総力で取り組んでまいりたいと考えております。
 地球温暖化対策の実施にあたっては、産業界をはじめ、国民各層の理解と協力が不可欠です。特に、国民の皆様一人ひとりが温暖化対策の重要性を理解し、日々の生活や企業活動の中で環境にやさしい行動を実践して頂くことが重要と考えております。
 最後に、この会議の開催を通じて、参加者の皆様のみならず、アジア太平洋地域の人々の間で環境問題に対する共通 の理解と認識が深められ、新たな取組に繋がる大きな成果が得られますよう、会議の成功を心からお祈り申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。
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