記念講演

「アジアの食糧および農業政策に対する今後の課題」

写真 パー・ピンストラップ-アンダーセン

パー・ピンストラップ-アンダーセン  ●コーネル大学栄養科学科教授
アジアでは、飢餓、微量栄養素欠乏、太りすぎ及び肥満という栄養不良に関する3重苦が拡大している。栄養不足人口はここ40年間で急速に減少しており、ミレニアム開発目標は2015年までに達成できる見通しである。しかし同時に、太りすぎや肥満が多くのアジア諸国で急激に増加しており、微量栄養素欠乏症が広がっている。アジア諸国の多くは急激な経済成長により、畜産品、果物、野菜の需要増加を含め、食生活に著しい変化が起きている。この食生活の変化は、アジアで食糧生産と食糧消費の格差が広がっていることを受け、様々な食品や飼料の純輸入が増加していることに伴って起きている。食用肉の需要が急速に増加している東アジアで、一人当たりの肉の消費は、2020年までに中南米と同じレベルに達すると予想されている。アジアで食糧生産の増加を見込むには、大抵の場合、耕作地を拡大し収穫高を増加させなければならない。しかし例えそれが実現しても、生産増加はごくわずかに過ぎない。実際の食品価格は、魚を除き、2020年までに低下し続けるだろうと予想されているが、その幅はこれまでの20年間で低下した時よりは少ないだろう。

アジアの食糧及び農業には、(1)都市化・工業化による水資源を含めた環境が悪化する中で、食糧の安定供給をいかに維持していくのか(2)農業に依存し、飢餓に苦しんでいる貧困層をいかに救い出すのかなどの課題がある。

これらの課題を解決するためには、(1)科学技術による農業生産性の向上及び農産物の質の改善(2)水資源だけでなく、土壌、森林などを含めた天然資源の包括的な管理(3)農業に依存している貧しい人々のための輸出市場の確保などが必要である。

特に、日本には、(1)アジアの国々が農産物を輸出することができるよう、輸入関税などの国内農業への保護政策を見直すこと(2)アジアの農村部への開発援助を増やすこと(3)途上国との間で、科学技術の共有化を積極的に進めることが求められている。


コーネル大学栄養科学科教授。コペンハーゲンの王立獣医農学大学教授、オランダのワーへニンゲン大学教授を務めている。また、国際農業研究協議グループ(CGIAR)科学理事会議長で米国農業経済学会の次期会長に就任予定。2001年にWorld Food Prizeを受賞。国際食料政策研究所(IFPRI)で10年間にわたり所長を務めた。出版著書には、日本語を含む5ヶ国語で出版された『遺伝子組み換え作物』のほか、450冊以上の著書があり、学術論文、研究論文、書籍の見出しに引用されている。

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