記念講演

「少子・高齢化とアジア経済の行方」

写真 江崎 禎英

アンドリュー・メーソン  ●東西センター(米国)上級研究委員、ハワイ大学経済学部教授
世界各地、とりわけアジアにおいて大きな人口変動が生じている。出生率が減少または低い水準に達している一方、平均寿命は高水準に達しさらに伸び続けている。人口増加が減速し、一部の国では人口が減少しはじめている。人口の年齢構成が変化しつつあり、労働年齢人口の割合は現在、ほぼピークに達している。今後数十年間に高齢者数の急激な増加が見られるだろう。日本はアジアにおけるこうした人口変化の先頭を切っているが、日本だけではなく、アジアの二大国、インドと中国でも遅ればせながら同様の変化が生じている。

 こうした人口変化は、アジアおよび世界の経済に深遠で持続的な影響を与えるだろう。過去数十年間、アジア諸国経済は人口ボーナスの恩恵を受けてきた。つまり、労働年齢人口の割合が増加したことで、一人当たりの国民所得が押し上げられてきた。日本では、現在、配当がマイナスに転じている。労働年齢人口割合の減少により、一人当たりの国民所得が低下している。他のアジア諸国でも、人口ボーナスがやがてマイナスに転じるだろう。だがこうした不利な展開にもかかわらず、二度目の、さらに大きな人口ボーナスを手にできる可能性もある。平均余命の伸びと退職後余生の長期化は、富の蓄積と資金供給増大への強力な刺激となる。貯蓄の奨励を通じ、アジア諸国は最初の人口ボーナスを大幅に上回る二度目の配当を期待し得る。しかしながら、この配当は自動的に得られるものではなく、アジア諸国は、家族的な支援制度や公的な支援制度を通じて、高齢者の資金ニーズに対処する政策を選ぶかもしれない。そうなれば、将来の労働者世代の負担が大きくなり経済成長が阻まれるだろう。高齢化は経済衰退を導くという通説の正しさが証明されるかもしれない。だが、的確な政策をとれば、高齢化によって新たな経済成長の時代がもたらされる可能性がある。


東西センター上級研究員、ハワイ大学経済学部教授。カリフォルニア大学バークレー校「高齢化の経済・人口統計学センター(CEDA)」、およびハーバード大学「高齢化の国際人口統計学に関するプログラム」のメンバーである。1983~84年にマサチューセッツ工科大学の客員研究員、1998年にはパリ政治学院客員教授をつとめた。1975年、ミシガン大学にて博士号を取得。人口変化と経済変化の長期的相関関係、特に年齢構造の変化によるマクロ経済的影響を研究テーマとしている。12か国以上の国の研究者が参加する国際プロジェクトを共同で率い、子どもと高齢者の経済的ニーズへの対処のため各国が用いている制度を評価・調査する包括的アプローチを開発している。この国家移転会計プロジェクトが終了すれば、家族支援制度、公的年金・医療・教育制度、およびそれらが経済成長、世代間の公平性といったマクロ経済的な要素に及ぼす影響の研究に役立つと予測される。 近年の著作に『富の共有―人口変化と世代間の経済的移転』(オクスフォード大学出版局、ジョージ・タピノスと共編)、『東アジアの人口増加と経済発展―課題への対処とチャンスの追求』(スタンフォード大学出版局)がある。

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