井植敏淡路会議代表理事による開会挨拶、井戸敏三兵庫県知事による歓迎挨拶に続いて、京都大学名誉教授で元同大学防災研究所所長、水資源環境研究センター長の池淵周一氏から、「日本とアジアの水資源-その実態と対応-」をテーマに、記念講演を行っていただきました。
記念講演では、「世界の人口は過去100年の間に3倍になり、それに伴って水利用も6倍になった。とりわけこのアジア域においては、人口増加、それに伴う生活や経済発展により水使用量が大きく、将来もその増加が予想されている。アジア各国においては水の供給確保のため、河川の自流を流用する段階から技術水準に応じた節水等により水確保に努めるようになってきている。」とアジアの水資源の現状を述べられるとともに、「経済のグローバル化により農産物・畜産物の輸出入に伴う水の輸出入をバーチャルウォーター貿易としてとらえることで、水資源開発を行わない選択も出てくる。農産物をバイオエネルギーとして利用する中で、このような水と食糧、エネルギーも加えた相互関係、都市用水、工業用水、農業用水の競合のことも検討せねばならない。」と述べられました。最後に「水資源の開発、配分、利用はもとより、水質、水環境の保全を含めた総合的な水資源マネジメントが必要である。」旨、述べられました。
引き続き、京都大学防災研究所気象・水象災害研究部門教授の中北英一氏をコーディネーターとして、シンガポール、中国、メコン河流域の水資源の状況について各地域の専門家から発表と質疑応答がありました。
まず、国立シンガポール大学海洋科学研究所次長兼首席研究員のリオン・シエ・ユイ氏から「水資源と気候変動が及ぼす影響」と題してシンガポールの現状の報告がありました。
リオン氏は、雨水を堰き止めて利用するシンガポールのマリーナ堰プロジェクト、再生利用水と淡水化のプラントの概要について説明され、「シンガポールはマレーシアから水の供給を受けており、水ストレスが高い国だからこそ水の自給にむけて最大の努力を傾けている。また、他の諸国と同じく、シンガポールは気候変動がこの島国に与える影響について大変懸念している」旨、述べられました。
続いて、中国水利水電科学研究院水資源研究所副所長の甘 泓(ガンホン)氏が「中国北部における水資源開発の戦略とそれをとりまく諸問題」と題して中国の現状の報告がありました。
甘氏は、「中国には洪水以外に水不足、水質汚濁、生態系劣化の3つの問題があり、中国北部のこういった問題解決のため、揚子江の水を北へ送る「南水北調」プロジェクトを実施しているほか、水の使用に関心を持つ社会システムづくりをはじめとした広範な水の管理に取り組んでいる」旨、述べられました。
最後に、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所地球温暖化対策研究チーム長(兼)水文資源研究室長の増本隆夫氏が「メコン河における水資源と国際間水利用の現状について」と題してメコン河の現状の報告がありました。
増本氏は、「モンスーンアジアにおける長い歴史と持続性を持った農業は稲作農業である」と述べられ、メコン河の洪水と農業が切り離せない関係にあることを紹介されました。また、6カ国を流れる国際河川としてのメコン河の特長から、流域国間の調整の難しさに触れ、国際水利用におけるパワーバランスの取り方について問題提起されました。
会場には、在日ハイチ共和国大使館臨時代理大使、在日パキスタン・イスラム共和国大使館公使など計7カ国からの参加者を含む約250名の参加がありました。