第13回「アジア太平洋フォーラム・淡路会議」国際シンポジウムの概要

写真:第13回国際シンポジウム会場風景

プログラム
  • 日時
    2012年8月3日(金)
    13:00~17:10
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「日本の未来と人づくり」
  • 内容
    • ○開会挨拶
      井植 敏
      アジア太平洋フォーラム・淡路会議代表理事
    • ○歓迎挨拶
      井戸 敏三
      兵庫県知事
    • ○第11回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)授賞式
    • ○淡路会議開催趣旨説明
      片山 裕
      神戸大学大学院国際協力研究科教授
    • ○記念講演
      「世界文明史的な実験をめざして」
      講師: 山崎 正和
      (劇作家)
      「日本『再創造』~「プラチナ社会」の実現に向けて」
      講師: 小宮山 宏
      (プラチナ構想ネットワーク会長、株式会社三菱総合研究所理事長、東京大学総長顧問)
      「地域の未来 ~あわじ環境未来島構想の推進~」
      講師: 井戸 敏三
      (兵庫県知事)
    • ○コーディネーター
      村田 晃嗣
      同志社大学法学部長

シンポジウムでは、井植敏 淡路会議代表理事による開会挨拶、井戸敏三 兵庫県知事による歓迎挨拶、アジア太平洋研究賞授賞式に続いて、片山裕 神戸大学大学院国際協力研究科教授による淡路会議開催の趣旨説明が行われ、そのあと、村田晃嗣 同志社大学法学部長をコーディネーターに、3名の講師による記念講演が行われました。

各講演の要旨については以下のとおりです。

◇記念講演「世界文明史的な実験をめざして」の要点
講師:山崎 正和 (劇作家)
  1. 世界観の統一と世界共通文明の形成

    文明の成立には世界観の一致が必要となるが、現在、環太平洋地域に生きる人間は、広い意味での自然科学を共通の世界観としている。また、世界の五大宗教が極めて友好裏に存在しており、そこに日本の神道のような土着信仰も平和的に共存している。今、世界的に文明は統一の方向へ向かいつつあるが、環太平洋地域はその先陣を切ってきた。

  2. 異文明の共存と進化

    西洋文明は、全く異質の二つの文明の統合によって生み出された。一つはヘレニズムという、ギリシャで生まれた合理主義の社会観である。もう一つがユダヤ教的な、真実は唯一絶対という信念だ。この融合から生み出されたのがキリスト教であり、この二つの思想を同時に持つ宗教はほかにない。キリスト教は、神が世界を創造したという信念の一方で、自然をどう説明すればつじつまが合うのかということに多大な関心を寄せた。するとたちまち矛盾が生じ、キリスト教と初期の科学は激しい葛藤を繰り広げることとなった。しかし、科学自身がキリスト教の持っていた、正しいことは一つしかないとする一元的な信念を引き継いだものなのである。そのため、地動説を主張して火あぶりの刑に処されたブルーノをはじめ、多くの科学者が殉教者のごとく命を落とした。

    さらに、ヨーロッパは他の大きな文明圏と違い、小さな国々が併存する文明を持っていた。これは文明の進化にとって極めて有利な条件となる。文明は、他国に移って受け入れられたり迫害されたりすることで、互いに切磋琢磨しながら強く育っていく。したがって、他国から文明を輸入することは、誇りでこそあれ、恥ずかしいことでは決してない。

  3. 環太平洋文明圏の形成に向けて

    日本に大きな歴史的貢献があるとしたら、西洋で生まれた「近代文明」をアジアで初めて受け入れ、これを実のある形にまとめたことだ。中国は、中華文明のみが存在し、他に文明があることは一切認めない華夷思想をとっていた。一方日本は、中国を偉大な外国文明として受け入れながら、それを雑種強勢することに努めた。その経験を踏まえ、日本は西洋文明と思われていた世界文明をも受け入れた。逆に言えば、日本が受け入れたことで、西洋文明が初めて世界文明になった。

    第二次大戦後、日本は環太平洋諸国と友好を深めようと積極的に努力し、北米やオセアニアと関係を深めることで、アジア地域に多くの人々を招き入れた。また、新興国に対しては、ODAの援助やJICA、国際交流基金の活動を通じ、地域の融和と文化交流を大きく促進した。さらに、民間の資本・技術の移転は環太平洋の新興国家を勇気づけ、現在の世界経済を見ると、GDPの世界トップ3は環太平洋地域が占めている。

    今後、この趨勢を引き継ぎ、さらに強めていくことが日本の進むべき道である。そこで注目されるのがTPP(環太平洋パートナーシップ)だ。国内では、農業や国民皆保険制度の存続が危ぶまれるとして反対の声も大きいが、交渉のやり方次第でそうした問題も乗り越えていけると考える。

    農業に関しては、和牛や日本米が世界の富裕層に人気を博しているという状況を生かし、生産性を上げつつ輸出に転じていく戦略を採ることができる。保険制度については、かつてデンマークがEC(欧州共同体)加盟時に採った高次元のところで調和を図る「ハーモナイジングアップ」の戦略が応用できる。これは、実現は難しいが否定もできない理想とされる目標を掲げ、これを共通の目標にしようと言って交渉するものだ。当時、ECはドイツとフランスが先導しており、デンマークは後発加盟国として入ったため、自由貿易・無関税という条件を一方的に飲まされる心配があった。ヨーロッパ随一の環境保護先進国となっていたデンマークは、経済の自由化を受け入れる代わりに、環境保護を重要な制限情報として入れることをドイツやフランスに迫った。これには誰も抵抗できず、結局デンマークの意向が通り、EUでも環境保護は大きな趣旨の一つとして継承されている。

    方法はさまざまあるが、最終的な目的は環太平洋文明圏を前へ進めることだ。その反対概念である華夷秩序は、決して再現してはいけない。中国の一党独裁を攻撃するつもりはないが、他国に軍事力を派遣し、領土を脅かす行動は看過できない。そのために、我々は抑止力としてアメリカの軍事力を背景に持っていなければならない。その意味で、TPPは純然たる経済問題ではなく、華夷秩序か環太平洋文明圏かという選択であり、日本の未来は後者にしかない。

◇記念講演「日本『再創造』~『プラチナ社会』の実現に向けて」の要点
講師:小宮山 宏 (プラチナ構想ネットワーク 会長/株式会社三菱総合研究所 理事長/東京大学 総長顧問)

21世紀のビジョン「プラチナ社会」

今、先進国の人々は、衣食住はもちろんモビリティや情報までさまざまなものを誰もが持てる社会になっている。だが、欲しいものがなくなると経済は終わってしまう。そうならないために今後、目指すべき社会を私は「プラチナ社会」と定義している。その社会の要素としては高齢者も含め誰もが参加でき、雇用があること、エネルギー資源の不安がないことなどがあり、エコであることも重要な条件となる。

高齢化は21世紀に人類が共通して遭遇すべき課題であり、日本だけの課題ではない。先進国すべての課題であるばかりか、新興国をも巻き込む人類全体の課題なのである。

プラチナ社会の実現に必要なものは、まずは美しい生態系である。今後は公害克服にとどまらず、多様な生態系を守っていかねばならない。また、日本は資源がないためにエネルギー資源を輸入に頼っているが、今後は自給に向かう必要がある。エネルギーの多様化や新エネルギーの導入を図れば、自給率70%も夢ではない。大型の火力発電所では、発電時にできた湯は海に捨ててしまうが、それならば100万軒の家庭にコージェネレーションを導入する方が効率的だ。省エネ市場へ向けた新しいイノベーションが考えられる。

それから、断熱住宅を普及することで林業に需要が生まれる。木材確保のために木を切れば荒れた森林の回復にもなり、製材から出るチップを燃やすことで原子力発電所5基分のエネルギー供給が可能となる。さらに、断熱住宅に住むことで、高齢者のヒートショックやカビによる有病率が格段に減少する。つまり、断熱住宅は省エネだけでなく、健康をもたらし、医療費削減にもつながる。

エネルギー自給率を増やし消費を減らす方法として、金属のリサイクルが挙げられる。金は掘っても1tに5gしか採れないが、携帯電話1tには250gも含まれている。それらを回収してリサイクルする方が効率がよい。文化や技術があって資源のない日本にとってまさにチャンスである。日本は課題先進国から「課題解決先進国」として、世界のロールモデルになるだろう。

プラチナ社会実現の条件として、長寿を楽しめる社会であることが挙げられる。長期介護が必要な高齢者は全体の2割で、それ以外は健康状態を維持している。従って、その8割をどうするかに着目すべきである。良い高齢社会をつくることで社会の負担も減らすことができ、そこに新たな産業が生まれる。

プラチナ社会に必要なことは、①エコロジー(公害克服、生物多様性、地球環境)、②資源への心配をなくすこと(省・新エネ、一次産業、循環型)、③老若男女の社会参加、④心も物も豊かであること、⑤雇用の確保である。また、この社会づくりは中央集権ではなく、やる気のある自治体をベースに進めるとよい。各地での事例を構造化し、それを知識として共有し、すぐに実行するというサイクルで、自主的にプラチナ社会を創造する人々の出現が望まれる。

◇記念講演「地域の未来―あわじ環境未来島構想の推進―」の要点
講師:井戸 敏三 (兵庫県知事)

あわじ環境未来島構想について

淡路島は「島」であることで地域開発が遅れ、明石海峡大橋の完成後も、高額の通行料がネックとなっている。また、10年で人口が1割減少し、域内総生産額は約15%減少するなど厳しい現状にある。その一方で、国生み神話や人形浄瑠璃等の歴史的・文化的価値の蓄積、高い食料自給率、豊かな農業環境など高いポテンシャルがある。さらに、京阪神の大都市圏へのアクセスが非常に良好であり、平成26年度以降は明石海峡大橋の通行料が引き下げられる予定である。オールドタウン化が進む大都市の高齢者が充実した生活を維持できるかどうかを考えるとき、大都市に近く、これだけのポテンシャルを有する地域を活用することには、大きな意味があると考える。

  1. 構想のねらい

    まず、効率や利便性を重視した大都市依存型の効率成長モデルへのアンチテーゼとして、生活の質や豊かさを求める持続成長モデルを考えていく。さらに、住民・企業・行政の三者が協働、協調しながら、産業を創出し、地域を持続させていこうと考えている。淡路島は、少子高齢化と雇用減少、後継者不足といった地方共通の課題が凝縮しており、農村と漁村、市街地が隣り合う日本の縮図の要素がある。そこで大都市依存(超高齢化、高コスト)を乗り越える「まち」から「むら」への潮流形成を淡路島で築きたい。

  2. 取り組みの柱

    取り組みの三つの柱は、地域資源を生かした再生可能エネルギーをベストミックスして、豊かさと両立するエネルギー消費の最適化を図る「エネルギーの持続」、安心と健康を支える食の生産・供給拠点をめざす「食と農の持続」、その集大成としての「暮らしの持続」である。推進に当たっては、「地域活性化総合特区」を活用し、誰もが安心して生涯現役で暮らし続け、国内外から人が集い、交流と活力が広がる島を目指している。

  3. 主なプロジェクト

    エネルギーの持続として、多様な再生エネルギー源をフル活用してエネルギー自給島を実現すべく、大規模太陽光発電所の整備、強い西風を生かした風力発電や強い潮流を生かした潮流発電の検討、さまざまなバイオマスの複合利用やバイナリー発電等を組み合わせた農漁村型スマートビレッジづくりなどを考えている。また、農と食の持続としては、人口減少・高齢化に対応した農業後継者の育成や多彩な農水産物の安定供給や地産地消の仕組みづくりを目指し、チャレンジファームよる人材育成、廃校を拠点としたエコ植物工場における薬草栽培、漁船の電動化・ハイブリッド化による漁業のグリーン化などに取り組んでいる。さらに、暮らしの持続として、大都市部の高齢者の受け皿になる健康長寿島の実現に向け、高齢者に優しい交通システムの構築などを進めていく。

    社会資本整備の遅れなど課題もあるが、ふるさと意識を高揚させ、明石海峡大橋の通行料引き下げを活用した人を呼び込む仕組みを考え、市民と企業、行政が一体となった元気な島づくりを進めていきたい。

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