淡路会議声明 2001

2001年8月4日(土) 第2回アジア太平洋フォーラム・淡路会議

アジア太平洋の持続可能な発展と環境に関する声明

〔序言〕

紀元1世紀の地球人口は約4億人であったと推定されているが、1900年を経て20世紀を迎える頃、4倍の16億人となった。しかし、20世紀の100年間だけで、地球人口はさらに約4倍の60億人へと膨張した。しかも、一人当たりの生活水準は格段に高まっており、産業革命以来、人類が手にした生存手段の発達は誠に驚くべきものである。

21世紀を迎えた人類は、一方で各国と世界経済の後退を恐れ、なお広汎に存在する貧困を克服するためのさらなる経済発展を必要としている。他方で、幾何級数的に膨張した人類の活動が、世界の資源を食いつくし地球の環境をいたましく傷つけていることを直視せざるを得ない。21世紀の人類が、自然を回復する仕方で発展する英知を見失うなら、人類生存の基盤である地球生態系を破壊するに至ることは今や明らかである。

それ故、われわれ「アジア太平洋フォーラム・淡路会議2001」は、「アジア太平洋の持続可能な発展と環境」をテーマとして集い、2日間の集中的な討議を行った。

地球人口60億人のうち37億人を抱える今日のアジア太平洋地域においては、一方で地球の森林資源である熱帯雨林の伐採や火事による減少が、他方でアジア大陸北部では砂漠化が進行している。工業化に伴う酸性雨の拡大と都市公害の深刻化が進むとともに、地球温暖化の帰結としての低地や島嶼の水没が憂慮されている。気候変動と災害が間歇的に生じ、とりわけ貧しい人々が危険にさらされている。このような状況は、人類が地球的規模で国際的枠組みを強化し、対応することの重要性を告げている。

来年2002年はリオデジャネイロの地球環境サミットの10周年を迎え、持続可能な発展をテーマにヨハネスブルグ・サミットが予定されており、これを成功させることは人類に必要である。地球温暖化については、京都議定書(COP3)の批准・実施をめぐって、目下各国に足並みの乱れが認められるが、アメリカのような大国を脱落させることなく、先進国・途上国を含めて、地球的な協力の下での対応に至るよう粘り強い努力を重ねることが求められている。

問題の重大さと広汎さを思うとき、それへの対処もまた多元的・重層的でなければならない。国際的枠組みのレベルが肝要であると同時に、各国・地域における政府レベルと民間レベル双方にまたがる努力が不可欠である。多様な利害関係者(マルチ・ステイク・ホールダー)の活動と意思決定への参画を得ることなしに、グローバルな問題を克服することは出来ない。持続可能な発展のためには、一面的な経済成長至上主義から訣別し、市民生活のニーズを尊重し、成熟した問題理解に立つ環境民主主義を強化しつつ、人間と地球の安全保障を求めて行かねばならない。

具体的なケースとして、本会議においては、シンガポールが力強い政治的リーダーシップのもとで、豊かさと環境の両立を図るガーデン・シティ構想を進めたことが報告された。また、この淡路会議の会場そのものが荒廃した土取り跡地からの緑豊かな公園への復活であり、産業化の中で生命を失った瀬戸内海の島々に自然を復活させ、人々の憩う場とする民間運動が展開されていることが披露された。さらに、太平洋の島嶼を襲う津波に対する科学的知識を平明に島民に知らせるパンフレットを配布するNGO活動が成果を上げた例が報告された。官と民の努力は二者択一的ではなく、相互補完的に展開されねばならない。また環境情報の共有、環境教育、人材育成の重要性が確認された。

「持続可能な発展」という概念は、経済発展と環境との両立を志向するものである。たとえば、持続可能な林業(sustainable forestry)という観点に立つことにより、かえって利益を長期的に享受しうるように、発想の転換によって対処可能な領域もあり、また新たな技術開発が解決する問題も少くない。環境を大切にし、環境改善商品を生み出す企業経営こそが、長く世界に立ちうるものとしてさらに推進されねばならない。しかもなお、先進国と途上国との格差が大きく、途上国が貧困と環境の深刻な問題を抱えつつ、環境改善のコストを担うことが難しい事態を考えれば、先進諸国とりわけアジアにあって日本がODAを環境協力に一層振り向けることが求められる。

日本が、アジアにおける持続可能な発展に向けて建設的な役割を担い続けるためには、日本自身が大胆な経済構造改革を成功させ、健全な活力ある経済社会を取り戻すことが不可欠である。また、過去の戦争に起因する対立と不信を克服し、国際的な公共財であるアジア太平洋の環境に貢献して、アジアにおける協力的な国際関係の樹立に努めねばならない。さらに日本社会自体が工業化の中で大地を痛めつけた歴史を克服し、緑と花の自然あふれる美しい都市と社会を再生することを目標とすべきであろう。

日本をはじめアジア諸国は、近年ますます中東石油へのエネルギー依存を深めている。環境負荷の少ない天然ガスの極東ロシアからの調達による多角化、原子力発電の安全性の確保、クリーンな新エネルギーの開発などに力を注ぎ、経済安全保障と環境の両立を図らねばならない。

~それゆえ、われわれは次を緊急に提言する。~

地球環境をめぐる先進国・途上国を通じた協力枠組みを確立すべきである。

日本は環境ODAを強化すべきである。

NGOによるきめ細やかにして創意に満ちた活動、及び環境技術協力を組み込んだ民間企業の活動を強化すべきである。

砂漠化を食い止め、地球のCO2を抑え酸素を回復する森林再生活動を官民あわせて展開すべきである。

ページのトップへ戻る