淡路会議声明 2002

2002年8月3日(土) 第3回アジア太平洋フォーラム・淡路会議

20世紀後半の情報・交通の飛躍的な発展は我々のライフスタイルを一変した。 国境を越え地球規模でヒト、モノ、カネが容易に移動、そして情報が瞬時に、 しかも、極めて低コストで伝播するようになった。国連によると2001年のインターネット人口は5億人に達し、 英語圏が47%、次いで日本が9%を占める。一方、海外旅行者の数は約7億5600万人に達し、これも増加の一途である。 今後ますます大規模なヒト、モノ、カネの移動と、インターネットによるグローバルな展開が予想される。

こうした現状を踏まえて、「アジア太平洋フォーラム・淡路会議2002」は「アジア太平洋地域における人と情報の交流」 をテーマに淡路の地に集い、2日間の集中的な討議を行った。

アジアは1997年、通貨危機に見舞われたが、その成長力は依然衰えていない。 製造業、ことに家電、繊維、バイク等の世界におけるアジアの生産シェアは大きい。 こうした製品の輸出を梃子にアジア諸国は経済発展を遂げ、世界経済を牽引するまでになったのである。

それに加え、ここ数年アジアではITビジネスの急伸がめざましい。インターネットを使っての e-Commerce、e-Logistics、e-Trade等の発展は、いまや伝統的なものとなった既存産業と同様、 先進国から始まった革新であるが、注目すべきは途上国のキャッチアップのタイムラグがほとんどないという点である。 実際、中国をはじめとするアジアのITの発展が西欧や日本のそれと遜色のないレベルに達する日も近い。 携帯電話の加入者数にしても既にアジアは世界をリードしている。アジアは21世紀において、 これまでのような西欧追随型ではなく、むしろ世界を積極的に、そしてダイナミックにリードすることになろう。

情報産業の革命的発展により、知識・情報は時間及び空間を越え、瞬時に世界のどこにおいても その交換・共有が可能となっている。経済活動はその意味でさらなる広がりを見せ、より競争的になり、 効率性の観点から大いなる可能性がある。実際、いくつかの事例によると、ITは生産効率を2割ほど向上させた。 その波及効果も計り知れないものがある。とはいうものの、楽観は許されない。 ITの発展はマイナスの側面も持つからである。すなわち、デジタル・ディバイドが顕在化し、様々な文化的、 社会的問題が深刻になろうとしている。また、情報の技術革新のスピードに比べると、それを有効に利用するための 制度的枠組みや法整備も遅れている。ITの性格から考えて、国際協調が不可欠となる。 加えて、伝統的な文化との摩擦やモラル・ハザードの蔓延といった問題も生じてくる。

これらの問題をいかに解消するかということが、経済を大きく革新するITのダイナミズムを 生かすための今後の課題となろう。

IT革命の進行は、ITにアクセスできる一部の人々がより豊かになり、そうでない圧倒的多数との間の経済格差が 拡大する危険性をはらむ。だからといってITの進展を押し止めることは愚策といわざるを得ない。 これを打開するために2つの方法が考えられる。一つはITの操作性の簡易化、大衆化である。 アメリカで発明された電化製品が日本国内での普及過程で、よりコンパクトかつ簡便なものになり、 それが電化製品の世界的な普及に大きく貢献したように、ITに関しても関連ツールの利便性の追求と大衆化が 目指されねばならない。もう一つは、社会的弱者を含めたより多くの大衆にITへのアクセスを可能にさせるべく、 政府と民間が協力してIT弱者を可能な限り救済することである。情報教育の重要性を、この点で改めて強調したい。

これらの課題を超え、ITによる情報の普及・共有が実現するならば、ITの社会的な役割は、 かつての新聞・TVの普及が果たした以上に革命的となる。しかし、TV等の従来型マスメディアが、 Face to Faceのコミュニケーションに基づいた地域社会の社会保障機能を大幅に低下させた例もある。 ITが今後発展し続けるとすれば、従来型マスメディアの轍を踏まないよう心がけねばならない。 Face to Faceのコミュニケーションを基礎とした人々の協力関係、すなわち、心の通った人と人との交流の重要性を 今後も忘れるべきではなかろう。我々淡路会議は、こうした問題意識に立って、IT化を人々の生活・社会経済発展の 重要な手段と位置付け、異文化理解の深化とIT化の進展との相互補完関係の重要性を強く主張するものである。

21世紀の人類社会に求められるのは個人のレベルから、企業、種々の集団や国家に至るまで、情報の交換と人の 交流を通して異なる社会や文化の理解を進め、相互に尊重し、信頼しうる、多文化共生時代を築くことである。 そうした社会の構築にITが無限の可能性を秘めた道具であることは疑いの余地がない。そして、 アジアのダイナミズムにとって重要な位置を占めることもまた疑いの余地がない。 ITとの共生が大きな課題となるゆえんである。

~以上の議論より、われわれは次の提案を緊急に行う。~

今後のアジア太平洋にとってITの発展は経済を牽引し社会の活力を高めるものとして重要であり、その一層の推進が必要である。

アジア太平洋地域おけるIT分野での各国の協力体制、規格の標準化、法整備、人材育成が重要である。

デジタル・ディバイドを是正するために、一方でIT教育が重要であり、他方でITの大衆化がさらに追求されねばならない。

21世紀の多文化共生の時代においては、人々・都市・地域の交流と異文化理解を深化させるために、ITを発展させ活用すべきである。このとき、ITのダイナミズムが地球社会に真に貢献することになると確信する。

ページのトップへ戻る