シンポジウムでは、井植 敏代表理事による開会挨拶、井戸敏三 兵庫県知事による歓迎挨拶、アジア太平洋研究賞授賞式に続いて、五百旗頭真 防衛大学校長・神戸大学名誉教授により淡路会議開催の趣旨説明が行われました。
そのあと、神戸大学大学院国際協力研究科教授 片山裕氏をコーディネーターに、韓国外交安保研究院教授 尹德敏氏、早稲田大学名誉教授 毛里和子氏、同志社大学大学院総合政策科学研究科教授 林敏彦氏の3名による記念講演が行われました。
まず、韓国外交安保研究院教授 尹德敏氏は「韓国の対外戦略、韓国からみた日本」と題した講演の中で、韓国社会について「パリパリ(早く、早く)という言葉を日常的に使い、ビジネスや行政サービスも合理的だが、半面自殺も多い厳しい競争社会」と述べ、逆に日本は「成熟社会となって内向きとなり、ダイナミズムを失いつつある。成熟した社会は年老いた社会に陥る傾向があるが、若者が挑戦する意欲を失う中で活気を回復する必要がある」と指摘。韓国はFTAなど積極的に開放政策を進め、企業もロシアや東欧、南米に市場を開拓しており、李明博政権のスローガンも「Global Korea=世界に貢献する韓国」であると紹介。「グローバリゼーションでは外向きになることが大切で、アメリカ、日本、韓国、中国が共に協力するグローバル・ガバナンスが大事である」とし、今後は成長のエンジンとして、韓国と日本の市場を共通にする必要性を述べた上で、「日本の常任理事国入りを韓国が応援する、韓国のG8入りを実現させるなど、世界の平和と拡大に貢献するため、新時代の両国関係を築く必要がある」と指摘した。
次に、早稲田大学名誉教授の毛里和子氏は「チャイナ アズ ナンバーワン?-中国とどう向き合うか」と題した講演の中で、中国の現状について、GDPは2010年中に日本を抜いて世界第2位になるが、購買力平価では既に世界第2位になっており、人口、成長率、エネルギー消費量では世界第1位であると述べる一方、アジア諸国の自由度の比較では、政治的権利、市民的自由とも中国は「不自由」であると指摘。中国の政治的構造は、共産党=国家=軍が三位一体で、中国の資本主義は国が経済にコミットする国家資本主義であり、国有企業の資産総額がGDPの37.4%を占め、世界大企業100の中に中国の国有企業が4社も入っている一方、ラサ事件やウルムチ事件など弱者集団による社会抗争も発生しており、集団陳情も多く、中国のリーダーにとって「民主主義」は目標であるが恐怖でもあると述べたあと、日中関係は利益・パワー・価値の三層構造で成り立っており、領土・領海、歴史問題は特に難しい一方、日本の対中経済依存が進んでいる。今後は東アジアに共通の利益をもたらすよう、EUに匹敵するモデルを日中韓の3国とASEANでつくるべきだと指摘した。
最後に、同志社大学大学院総合政策科学研究科教授・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構研究統括の林敏彦氏は「日本の未来-人間開発主義と高福祉の日本モデルを求めて」をテーマに講演。これまでの日本の成長経済の構造等について解説するとともに、これからの日本の高齢・人口減少社会について、2053年には人口が9000万人で高齢化率が40%になり、人口が30%減少すると一人当たりのGDPは58%下がると予想されることから、人口が減少した場合に生じるさまざまな社会的インパクトについて述べる一方、新たな可能性として一人当たりの面積は拡大し、イギリスやドイツと同じ人口密度になり、これからは経済開発主義から、一人ひとり人間の価値をどう高めるかという人間開発主義に転換し、人間の幸せを最大限にする社会を考えなければいけないと指摘。ウェルビーイング(幸福)社会に向けて、西欧並の公的な社会的支出が必要であり、ODAの復活、技術供与、集団的防衛能力の強化など国際的グッドウィルの貢献も必要であると述べた。
当日は237名の聴衆が参加し、熱心に耳を傾けました。