第12回「アジア太平洋フォーラム・淡路会議」国際シンポジウムの概要

写真:第12回国際シンポジウム会場風景

プログラム
  • 日時
    2011年8月5日(金)
    13:00~17:10
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「21世紀再生戦略-安全・安心にして活力ある日本社会の実現に向けて-」
  • 内容
    • ○開会挨拶
      井植 敏
      アジア太平洋フォーラム・淡路会議代表理事
    • ○歓迎挨拶
      金澤 和夫
      兵庫県副知事
    • ○第10回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)授賞式
    • ○淡路会議開催趣旨説明
      五百旗頭 真
      防衛大学校長・東日本大震災復興構想会議議長
    • ○記念講演
      「大災害からの創造的復興」
      講師: 貝原 俊民
      (公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長、前兵庫県知事)
      「新しい福祉社会実現へ向けての日本の戦略」
      講師: 藤井 威
      (佛教大学社会福祉学部特任教授、元駐スウェーデン・ラトヴィア特命全権大使)
      「21世紀の医療は統合医療」
      講師: 渥美 和彦
      (日本統合医療学会理事長、東京大学名誉教授)
    • ○コーディネーター
      片山 裕
      神戸大学大学院国際協力研究科教授

シンポジウムでは、井植敏 淡路会議代表理事による開会挨拶、金澤和夫 兵庫県副知事による歓迎挨拶、アジア太平洋研究賞授賞式に続いて、五百旗頭真 防衛大学校長・東日本大震災復興構想会議議長による淡路会議開催の趣旨説明が行われ、そのあと、片山裕 神戸大学大学院教授をコーディネーターに3名による記念講演が行われました。

各講演の要旨については以下のとおりです。

◇「大災害からの創造的復興」の要点
講師:貝原 俊民 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長

わが国が近代国家として歩みはじめた頃からの約100年の間に、関東大震災、阪神・淡路大震災、そして東日本大震災の3つの大震災に見舞われた。日本の近代化のなかでの大きな転換期に、それぞれ発生している。したがって、震災復興にあたっては、単に震災前の状態に戻す「復旧」ではなく、新しい時代にあった社会構造を創造する「復興」を目指すべきは当然である。

日本は1868年の明治維新から急ピッチで近代化を進め、20世紀初頭における日露戦争の勝利、不平等条約改定等により、独立した国家として国際的に認知されようとしていた1923年に関東大震災が発生した。このとき政府は、東京をヨーロッパ先進国並みの首都とするため「帝都復興計画」を推進したが、脆弱な政治体制下で大幅に縮小され所期の目的は達成されなかった。

次に、阪神・淡路大震災である。日本は第二次世界大戦後に驚異的な高度経済成長を達成し、1985年にはプラザ合意、G5参加等を通じて、自他共に認める経済先進国の一員となった。それから経済先進国として新しい国の型をつくることに展望がひらけないままバブル期に突入し、それが崩壊するところとなった。阪神・淡路大震災はその真っ只中に発生した。政府は、1日も早くその機能を回復するため復旧に全力をあげた。そのなかで高齢化が進む経済先進国日本を先導するモデルとして創造的復興を目指すべきであったが、政府にはそのような発想はなく日本は依然として“失われた20年”のなかにある。

東日本大震災は大地震のうえに津波、原子力事故も加わった複合災害である。したがって、元の機能を回復するためには、“改良復旧”をしなければならない。この改良復旧だけでも、莫大な費用と時間、なにより被災者の厳しい忍耐が必要となるであろう。

いま日本は、国内的には人口減少期に入って長寿社会の活性化が大きな課題であり、国際的には食糧・エネルギー・資源さらには地球環境問題などに直面している。成熟した国としての新しい型を構築すべき時である。復興の理念としては、「未来志向の創造的な取組」(「東日本大震災復興構想会議総理大臣諮問理由」より)でなければならない。困難な改良復旧を乗り越えて、日本再生の先導的モデルとしての創造的復興に成功するため、人口が減少し高齢者が増えても地域の活力を維持する「活力ある長寿社会モデル」、資源を活かし付加価値の高い産業を振興する「成熟国型産業モデル」、豊かな自然を活かした食糧自給や太陽光や地熱発電等の促進を図る「エネルギー食糧自給モデル」、広域災害に対応し相互の連携を促進する「ネットワーク型国土構造モデル」等の未来志向モデルを考えていかねばならない。

◇「新しい福祉社会実現へ向けての日本の戦略」の要点
講師:藤井 威 佛教大学社会福祉学部特任教授、元駐スウェーデン・ラトヴィア特命全権大使

スウェーデンは漸進的増収措置により、20年余というゆとりのある期間を掛けて、ビジョンの実現に向かった。その過程で、政治的にも穏健な話し合い路線を堅持し、建設的な対話と試行錯誤を重ね、1960年初頭の国民経済全体が若く、活力ある状況の下で、戦略を開始したほか、常に財政規律の堅持に意を用い、公債や借入金依存を徹底して排除し、国民に高い負担を求める以上、歳出政策面において、政策目的実現へ向けて最適な支出の合理的な組み合わせを徹底的に志向した。例えば家族政策において、女性の家庭からの解放という政策目的の下で、就業と子育ての両立に思い切った重点を置くなどいわゆる「賢明な支出-wise spending-」に努めたことが高福祉国家として成功した背景といえる。

そうしたスウェーデンの福祉体系は日本の福祉国家戦略を考える上で大いに参考にはなるが、全体としてその導入を図ることは、もちろんできもしないし適当でもない。しかし、日本の今のシステムでは働きながら2人以上の子供を産み育てられず、日本も導入せざるを得ない。まず、負担増→福祉サービス水準向上→受益感覚という課程をふまえつつ、国民との対話、与野党との対話を通じて、適切なビジョンの形成に努めるべきである。

膨大な財政赤字と、累積債務を抱える公共部門の危機的状況にかんがみ、できる限り早期に、ビジョン付き増収処置を開始する必要がある。その際のスウェーデンの例をさらに超え、財政赤字の縮小と、福祉制度の機能不全の是正と福祉水準の段階的向上に加え、未曾有の大災害からの再生を四方にらみで実施するという困難な課程を選択せざるを得ず、我が国に許される期間的余裕はなく、より短い期間内でより急速な漸進措置が避けられず、常にwise spendingを目指し、また、公債や借入金への依存を徹底して排除しなければならない。

このような困難極まる戦略を成功させるためのもう一つの条件として、政府の持つ「新成長戦略」の確実な実施の確保が必須であろう。福祉国家戦略と新成長戦略の同時遂行が求められる。これがわが国の共生社会への移行の一つの大きな道筋と考える。

◇「21世紀の医療は統合医療」の要点
講師:渥美 和彦 日本統合医療学会理事長、東京大学名誉教授

現代社会は、不安定、不透明、不確実というカオスの状態にあるといえる。

キリスト教とイスラム教の宗教対立、アフリカ民族運動、中国・インドの経済成長、東日本大震災など、その特徴を端的に現しているといえる。いうなれば、これらは、現代において、古い体制から新しい秩序へと、大きな変革が急速に進められていることを意味している。これを俯瞰的にみると、現代は、“東西文明が衝突し、新しい文明の創造”が行われる黎明期にあるといえる。これらを医学の観点に立つと、近代西洋医学からの脱皮ということである。

科学に基盤をおく西洋医学が、その成長の頂点に達したがために、いくつかの問題点が明らかになり、新しい医学への展開がのぞまれている。最近の医学分野における二つの画期的進歩、すなわち遺伝子科学と再生医学の発展は、従来の医療の在り方を根本的に変えることとなった。そして、治療の医学から予防あるいは健康の医学への転換、さらに個別化医療、全人的医療、包括的医療が求められるようになった。

この解決策の一つとして、東洋の智慧と西洋の科学の融合という新しい医療の展開が期待される。これが“統合医療”である。

このように考えると、“統合医療”は、まさに東西文明の弁証法的展開の結果の一つに他ならない。さらに、この度の東日本大震災は、人間の価値観に大きな変革をもたらすこととなった。一つは、自然の力は強大であり、“人間は自然と共生しなければならない”という認識である。二つは、“世界の資源は有限”であり、人間活動の肥大化による現代のライフスタイルに反省をもたらした。今後、人類が持続的発展をもたらすためには、次のようなことを考える必要がある。
1)エネルギーを浪費しない“エコ医療”の確立 -統合医療の展開-
2)エコライフスタイルへの転換 -エコ・テクノロジーの展開-
3)世界的資源の有効配分 -国際的応用システム研究所(IIASA)に代る“アジア・シミュレーションモデル予測研究所”の設立-

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