第16回「アジア太平洋フォーラム・淡路会議」国際シンポジウムの概要

写真:第15回国際シンポジウム会場風景

プログラム
  • 日時
    2015年7月31日(金)
    13:00~17:10
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「アジアの未来―政治・経済・文化―」
  • 内容
    • ○開会挨拶
      井植 敏
      アジア太平洋フォーラム・淡路会議代表理事
    • ○歓迎挨拶
      井戸 敏三
      兵庫県知事
    • ○第14回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)授賞式
    • ○淡路会議開催趣旨説明
      五百旗頭 真
      公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長、前防衛大学校長
    • ○記念講演

      「アジアの未来と日本の役割」

       
      講師: 福田 康夫
      (元内閣総理大臣)
      「21世紀のアジア」
      講師: 白石 隆
      (政策研究大学院大学学長)
       「アセアンの新たな課題:熟練とグローバルバリューチェーン(GVC)」
      講師: シャンドレ・タンガベル
      (オーストラリア・アデレード大学准教授)
    • ○コーディネーター
      片山 裕
      京都ノートルダム女子大学副学長

シンポジウムでは、井植敏 淡路会議代表理事による開会挨拶、井戸敏三 兵庫県知事による歓迎挨拶、アジア太平洋研究賞授賞式に続いて、五百旗頭 真 ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長による淡路会議開催の趣旨説明が行われ、そのあと、片山裕 京都ノートルダム女子大学副学長をコーディネーターに、3名の講師による記念講演が行われました。各記念講演の要旨は以下のとおりです。

◇記念講演「アジアの未来と日本の役割」の要点
講師:福田 康夫(元内閣総理大臣)

今年、日本は戦後70年を迎える。70年目の首相談話において未来のことを語るのは当たり前だが、未来を語る前提として過去のことを話さなければならない。日本は戦後70年たっても歴史問題でいまだに外国と云い争っている。残念至極である。戦後70年目に当たり、負の遺産を清算し、展望を拓ける首相談話を出してもらいたい。

  1. 老いていくアジア、いがみ合うアジア

    日本はアジアの中で生きている。現在、アジアは経済成長が他の地域より順調であることから注目されており、「成長するアジア」が一つのテーマとなっている。その中でも、特に最も成長している中国の動向が注目されている。

    アジアは年を取っていく。その先頭を切っているのは日本と韓国だが、5年後には中国、15から20年後にはインドネシアも老いていくだろう。そのような国々が考えなければいけないことは、生産年齢人口よりも高齢者人口が多い中で、新しい仕組みを構築し、国民にどうやって幸せを与え続けることができるかということである。

    ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国は言語、民族、宗教、文化、伝統が違う中でも大きなトラブルもなくうまくやっているが、日本を中心とした経済規模の大きな地域がいがみ合っている。アジアは再び世界経済の中心になるかもしれない地域であるから、私は非常に期待し、うまく育たなければならないと思っている。従って、日本がいがみ合う状況をどう克服していくかが重要だ。日本がアジア地域において果たす役割は大きく、日本に対する評価、信頼も非常に高い。この強みを生かさなければならない。

  2. 中国と日本

    今、アジアで特に問題になっているのが中国の台頭である。発展する中国が時に国際社会の問題として取り上げられるのは、急速な発展の中でどう身を処していくべきかを、中国自身がよく認識していないことが原因ではないか。

    日本も過去、急速な経済成長で他国に脅威を与えたことがある。例えば1960年代に日本のGDPが世界2位まで急激に伸びたことは、日本人は意識していなかったが、他国から見ると大きな脅威であった。1985年にプラザ合意による円高で金余りになった日本は、アメリカの資産を買いあさり、アメリカ人の感情を刺激した。

    このように、日本は気付かぬうちに他国の感情を害した時代を経て、経済成長しても謙虚でなければならないことを学んだ。今、中国も当時の日本と同様に、自国が他国に与えている脅威に気付いていない。私が中国人にその話をすると、よく分かると言ってくれた。私はいずれはそのような考え方が政策に反映されると期待している。東シナ海の問題は両者で話し合って解決しなければならない。ただ、南シナ海の問題については、中国はこんなに大きな国際問題になるとは思っていなかったようにも思われるので、いずれ国際社会が脅威を感じない方向にいくと信じている。いずれリーダーが適切に判断する時期が来るだろう。

    習近平氏とは主席になる前から会って話をしていた。彼は、日頃、平和的発展を言っており、近隣国との友好を掲げ、「アジアは運命共同体」であるとも言っている。

    中国について考えるときは、13億人の国民を統治するという大国ならではの運営の難しさがあることを考慮すべきである。習近平体制は、あと7年半は続く。われわれはそのような中国と忍耐強く、どのようにうまく付き合うかを考えた方がいい。

  3. 日本はどうすべきか

    これからの日本にとっては、世界諸国との関係調整も大事だが、日本と一番近い国々との関係をより良好にすることが優先課題である。過去の歴史問題はここで清算し、将来の展望をお互いに考えていくべきだ。戦争はこれからの世界では考えられない。最低限の抑止力は持っても、過度の抑止力を持つ必要はない。経済でもつながり、協調的な関係をつくっていくべきだ。

    また、日本が世界に最も求められているのは、技術開発である。個々の技術は大事だが、併せて社会の新しいシステムを開発する人材の育成が必要だ。日本では海外に出ていく若者も、海外からくる若者も少なく、国際交流が圧倒的に不足しており、国際社会における新しいシステムを開発できるのか心配している。

◇記念講演「21世紀のアジア」の要点
講師:白石 隆(政策研究大学院大学学長)
  1. 長期の趨勢

    21世紀における変化の長期の趨勢は二つある。一つ目は、力の均衡の変化である。G7の地盤沈下と新興国の台頭、アジア太平洋の比重の増大、中国の台頭がおこっている。これが世界的にも地域的にも秩序の変容をうながしている。

    二つ目の趨勢はグローバル化の進展である。国境を越えた資本移動、各国の比較優位に基づいた生産プロセスの細分化、頭脳循環(労働市場で価値が高い人材の移動)が顕著になった。アジアにおける今後の変化として、都市化の進展、中間層・富裕層の拡大、少子高齢化が挙げられる。中間層・富裕層が拡大するにもかかわらず、これから15~20年に渡って、アジアの多くの国々において所得格差や地域格差、都市と農村の貧困格差が残る。そういった格差を放置すれば、いずれ政治的・社会的問題につながるだろう。経済政策を決めるのは政治であるが、民主制の下では、明日の成長よりも今日のばらまきへの誘惑が大きい。国が構造改革せずにいると、マレーシアで起こっているように、優秀な個人の多くは外国に移ってしまい、国にとって大変な損失となる。

    現在は二つのタイプの政治が課題になっていると言える。一つはバランシングあるいは安全保障の政治で、もう一つは経済成長の政治である。アジアはこの30年間、経済成長の政治に非常に成功してきた。そのため、国民にはこれからも今までのように成長するだろうという期待があり、その期待に応えなければ政府が揺らぐ事態にもなり得る。

  2. 東アジア/アジア太平洋/インド太平洋の国際関係

    欧州と違って、アジアには通商と安全保障システムの間に緊張があり、現在はこれが高まっている。アジアでは、これまでアメリカを中心としたバイ(二国間)の安全保障条約、基地協定でつくられたハブとスポークスの安全保障システムが維持されてきたが、中国はこれには入っていない。一方、通商システムにおいては、現在のアジアにとって最大の貿易相手は中国である。中国が富国強軍で軍備を拡張し、南シナ海、東シナ海で自己主張を強めてくると、安全保障の緊張は高まり、それが経済にも影響がある。これが、現在のアジアの基本的な状況である。

    それを受けて、アメリカは、オバマ大統領が2011年の豪州議会演説において「太平洋国家」を宣言し、軍事的プレゼンスの維持・リバランシング、同盟国との連携強化、中国への関与とヘッジング、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の構築について言及した。

    中国は、一世代の間にこれだけ急速に力が拡大すると、指導者の考えとは関係なく、その行動が大きなリパーカッションを呼ぶことになる。東南アジアでは領土問題で争っているフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアは中国への警戒心を高めており、中国の経済協力からさまざまな利益を享受する可能性のあるラオスやカンボジア、ミャンマーは中国との関係をより発展させようとしている。

    また、大陸部東南アジアと島嶼部東南アジアの間で動きが変わりつつあると感じる。大陸部東南アジアでは広域的なインフラ整備が進んでおり、全ての国がこのネットワーク化を前提に自国の発展戦略を考えており、一方、島嶼部東南アジアでは各国がそれぞれで経済戦略を考えている。

  3. 21世紀のアジア

    21世紀のアジアは三つのことに留意すべきと考える。一つ目は、力の均衡が重要になるほど、大陸部東南アジアと島嶼部東南アジアというように、海と陸が地政学的に違う空間として分かれるということである。二つ目は政治や国家の目的で、「中国の夢」のように国家の栄光を目的とする政治なのか、「アメリカの夢」のように国民の生活水準の向上を目的とする政治なのか、今後はますます問われるようになる。三つ目は、国が個人の期待に応えなければ、優秀な人材は外国に流出してしまうということである。これからは、優秀な人材をうまく引きつける国が伸びていく。

◇記念講演「アセアンの新たな課題:熟練とグローバルバリューチェーン(GVC)」の要点
講師:シャンドレ・タンガベル(オーストラリア・アデレード大学准教授)
  1. ASEAN経済共同体(AEC)

    ASEAN経済共同体(AEC)とは、公平な経済発展、高い競争力のある経済地域、単一市場と生産基地、地域のグローバル経済への統合を目指す、ASEAN諸国による経済統合のことである。現状としては、まだサービスの自由化は進んでおらず、投資の問題も解決されていない。国が自由化したときは、貿易だけでなく人も動くため、非熟練工の動きが大事になる。

  2. ASEANで何が起こっているか

    ASEANを見る上では、重要な視点が四つ存在する。一つ目は、GDPに占めるサービスセクターの割合の上昇である。ASEANではサービス業が成長しており、若者が都市に流入するとともに、貧困層が農業に従事することになり、農業生産高が下がり、食料を外国から輸入するようになって、食料の価格が上がるため、農業分野の成長が求められている。一方、サービス業が成長すると、GDPが上がり、女性の雇用も増える。さらに、現在は消費財が多様化し、サービスの貿易へと変化しているため、熟練工が求められ、人材開発が重要になる。人口が高齢化しているASEANがすべきことは、若者の技能を上げ、女性の参加を促すことである。

    二つ目は、アジア金融危機以降のASEANに流入するFDI(海外直接投資)の減少で、これは生産の構造が変わってきたことを示している。今後、ASEANはFDIを増やしていかなければいけない。アジアにおけるグローバルバリューチェーン(GVC)では、日本は技術があるため上部にいるが、韓国が日本に追い付こうとしており、香港、シンガポール、台湾が続き、その次に、マレーシア、タイ、フィリピンが続く。中国はいまだに下の方にいるが、早く追い付くために、さまざまな施策を行っている。CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)諸国は下の方にいる。

    三つ目は、経済格差の広がりと政府の財政悪化である。経済危機が起こると、富裕層はリスクを管理し、より富むことができるが、貧困層はそれに対応できない。財政悪化の原因は人口の高齢化と構造的な失業である。

    四つ目は、GVCにおいて次なるステージを迎えるための人的資本の蓄積が少ないことである。ASEANのいくつかの国は中等教育が非常に弱く、これを解決しなければ、バリューチェーンから転落してしまうため、もっと教育に投資すべきである。

  3. どのような政策が必要とされるか

    今後必要な政策は五つある。一つ目は、サービスの自由化を進めることである。労働者の移動を認めるとともに、労働者の技能を相互に認証することが求められる。

    二つ目は技能開発である。ASEANのような高齢化している国では、教育を受けた若者が働くことが重要で、民間を関与させて人的資本の蓄積を上げていくといった、官民の連携が求められる。

    三つ目は、国内産業の発展のため、中小企業の育成が重要であり、中等教育への投資が必要である。

    四つ目は、地域機関の不足の是正であり、国境を越えた汚染、領海問題、食料安全保障、環境問題などが重要な問題となってきている。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)とRCEP(東アジア地域包括的経済連携)は規模とカバーしている範囲が異なるが、それらを使い分けるのがポイントだ。

    五つ目は、地域の統合である。ASEANハイウェイネットワーク(AHN)は、ASEANの主要な道路をつなぐ陸上輸送インフラであり、輸送、貿易コストが削減され、ASEANの連携を確立する。私はASEANが接続されることにより、サービスや人の移動、中小企業の貿易と投資への積極的な参加、地域の統合が促進されると考えている。

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