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HATコラム

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター 上級研究員 立木茂雄

1955年生まれ。
関西学院大学社会学研究科修士課程修了後、トロント大学大学院博士課程修了。
同志社大学社会学部社会学科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター上級研究員

一人ひとりの震災復興にとって大きな力を発揮したのが、人と人とのつながりです。このつながりが大変に深まったのが阪神・淡路大震災からの震災復興の道のりでした。そしてポスト震災復興の時代になっても、この思いは広く共有されているように見えます。

普段のわたし達の生活の中でもさまざまなリスクが存在しています。たとえば地域で起こる放火やひったくりといった犯罪のリスクに対して人と人とのつながりは、具体的にどのような力を発揮するのでしょうか。そのメカニズムはどのようなものなのでしょうか。このようなことを5年間にわたり調べてきました。

まず、人と人とのつながりが大変豊かで地域活動が活発な地域を神戸市内から9つ選び訪問させていただきました。5年前のことです。そしてどのような工夫によって、地域の活動が活発なのか、その条件を抽出してみました。すると大きく5つに集約されることがわかりました。

1つ目は多様力です。熱心なところでは地域の活動に大人だけではなく子どももかかわっている、あるいは住民だけではなくて、その地域の事業者の方も参加していました。

2つ目はイベント力です。地域の中でイベントや行事を上手に活用していました。例えばゴミ出しのルールが守れられていないところでは、ゴミ出しルールの守り方を地域のお祭りの中の出し物にして、住民自身で意識啓発をするという取り組みをしていました。

3つ目は自律力です。活動が熱心なところは会長さんが替わられても引き継ぎがうまくできるように、マニュアルなどを整備していました。さらに自分たちがしっかりしないと地域の問題が解決できないという観点から、地域から見たときの共通の敵について非常に高い理解をお持ちでした。

4つ目は愛着喚起力です。地域の「売り」(セールスポイント)を見つけて、それを住民の方々に発信していく、そして住民自身がこの地域に誇りと愛着を持っていただけるような努力を意識的にされていました。

5つ目はあいさつ力です。熱心に地域活動をされている地域では、住民の方々がそれほど面識のない方々の間でもあいさつを熱心にされていました。

これらの力が発揮されると結果として人と人とのつながり-これを最近ではソーシャルキャピタルと呼ぶこともあります-が高くなる、という仮説を立てました。これに基づいて、続く4年間にわたり神戸市内の自治会やマンションの管理組合の会長さんを対象に、質問票による調査を続けました。

調査票の中に7桁の郵便番号を記入してもらい、分析するときは7桁の郵便番号の地域の総合得点を使って、その郵便番号の地域の中で、例えば多様力やイベント力がどの程度なのか探りました。また、ソーシャルキャピタルがどれくらい豊かなのかも集計しました。その結果、地域の中で地域の方がたが一生懸命努力して、5つの力をそれぞれに高めようと努力しているところでは、ソーシャルキャピタルが確かに豊かになっていました。

豊かになるとどんな良いことがあるのでしょうか。防犯に関する意識や事実についても調査票では問い合わせています。空き巣やひったくり、放火といった犯罪に対してどれくらい安心できると感じているか、あるいは実際の放火や犯罪の件数を郵便番号の7桁単位でまとめて、その因果関係を探りました。犯罪学の分野では大きな犯罪はより些細な社会的秩序の乱れが引き金になるという理論があります。具体的には、ゴミが散乱している、街灯が壊れたままになっている、中高生が喫煙をしている、そういったことが放置されたままになっている。このような些細な秩序びん乱がどの程度地域の安全、安心に関係するのかについても調べました。

その結果を見ますと、市民が抱く安心感、あるいは実際の地域の犯罪の件数というのは、その地域の些細な秩序びん乱-無作法性とも呼ばれます-の程度に左右されていることが明解にわかりました。その無作法性に対して直接に予防的な影響を及ぼすのがソーシャルキャピタルでした。そして、先ほどの5つの力はそれぞれにソーシャルキャピタルを高める効果を持っていました。

人と人とのつながりが豊かなところではその地域の無作法性が下がっていました。その結果として安全、安心感が高まっていたのです。つながりを高める効果が一番高かったのは自律力、そしてイベント力、興味喚起力、あいさつ力、多様力と続いていました。このうち、あいさつ力は、それを始めるコストと得られる効果を考えると、とてもコスト・ベネフィットの高い力であることもわかりました。さらに関係者と一般住民のあいだで評価がもっとも一致していたのもあいさつ力でした。効き目があり、わかりやすく、成果が目に見えやすいのです。

身の回りの安全や安心を他人(ひと)まかせではなく、わがこととして考えるにはどうすれば良いか。あいさつ力はひとつの鍵になることを教えてくれました。