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HATコラム

関西大学教授、当機構研究調査本部上級研究員 矢野秀利

1949年生まれ
京都大学博士課程経済学研究科経営学修了
経済学修士
関西大学社会学部教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部上級研究員

国債は買う方からみれば、資産であるので買って保有する。つまり、国債は満期になれば元本は戻り、利子は確実に入る。現在、10年もの国債では1%ほどの利子がつく。銀行預金よりも利子は大きい。また、金融機関にとっても国債は他の証券に比べて価格の変動が小さく、国家が破産しないかぎり国債は最も安全な資産であるとみなされる。しかし、国全体からみると所詮、国債は将来の返還財源(税収)を担保にした借金証書にすぎない。 日本の国債の95%は日本国内で保有されている内国債であり、その保有の大半は銀行(郵貯も含めて)、保険会社等の金融機関、年金組織である。海外の機関投資家はわずか5%の日本国債を保有するのみである。外国債は利子分が国内から外国に所得が渡されるが、内国債ならば国内でのお金のやり取りであるから国内の資源が外国へ移転するわけではないので問題が小さいと一部では考えられてきた。

このことから、日本国債はほとんどが内国債であるので問題は小さく、かつ外国人投資家の保有が少ないから投げ売りはあってもたいしたことはないだろう。また、日本の金融資産は1400兆円あるので現在の国債発行残高や政府の借入れを合計してもまだ900兆円ほどであり、今後とも国債を発行していっても十分に市場で買い入れられるので、すぐには国債価格の暴落はないであろうという安心論が展開されることになる。暴落はないから現在の公共支出の費用をできるだけ長期に割り振り、遠い将来に完済すればよい。だから東日本大震災の復興資金に20兆円ほどを長期国債でまかなうのは問題ないという意見まで出てくる。極端には復興債を100年償還でまかなうという意見もある。現に、長期債は60年償還でやっているではないかということである。地方債の償還期間は30年であるにもかかわらず、である。

だが、復興債と同時に一般会計においては次年度、次々年度あるいはその翌年においても毎期30兆円~40兆円規模の新規の国債発行はなされていくであろう。2、3年で優に国債累積は1,000兆円を超えることになる。

平成22年度予算でみると国債収入は約44兆円であると理解されるが、この額は新規債のみの発行額であり、実際には借換債の約103兆円、財投債の15.5兆円を併せると一年度で国債発行額は約162兆円になっている。果たして2、3年後においても毎年100兆円を超える新規国債、借換債等がスムーズに市中で買われていくのだろうか。買うのはもちろん金融機関、年金組織、(借換債の場合は日本銀行も)であり、私たち国民は国債購入になる元手を貯金し、保険料を支払うのである。これらの金融機関がさらに国債を買い続ける余力があるのかによるが、これにあまり期待しても無理がある。となると、最後は日本銀行が、国債を市場で買い支えるか、あるいは直接政府から国債を買うという禁じ手を用いるしかないだろう。行きつく先は、財政規律の弛緩、赤字財政の拡大である。かつて戦争末期に軍事費のために大量の国債が発行されて、やがては敗戦とともに激しいインフレーションによって国債は紙くず同然になり償還問題は終結した。当時の国債保有者にとっては悪夢であった。昭和22年に制定された財政法はこの苦い経験をもとに原則は均衡財政、例外として建設公債を認めるとしている。しかし、実際には国会議決という裏ワザで用いて青天井で赤字国債(特例債)を発行し続けてきた。地方債とは異なり国債発行の上限はないのである。

現在、多くの金融機関がそれなりに規模に応じて大量の国債を保有しているし、今後も大半は保有されることを望みたいが、仮に、外国人投資家が国債の売りを進めたときに、これを座視できるであろうか。合理的に判断するならば、国債価格が値下がりする前に少しでも我先に売りに出るのはありうる行動である。値下がりをする国債を保有し続ければ金融機関の資産の劣化になり、金融機関自体の経営が危うくなるからである。これを倫理的に批判するのは簡単であるが、責任は売りに出た金融機関ではなく、こういう状況を放置した政策者にある。さらに国債の暴落は長期金利の上昇となり、マクロ経済へ深刻な影響を与えるのはいうまでもない。

基本からいえば、非常時はともかく、そこそこの不況時に予算の30%以上を国債収入に頼る財政運営を進めてきたことが問題である。「低負担中福祉」が不可能であるのは当然である。痛みを伴わない支出は、さらなる支出圧力となる。政治も選挙や世論を気にして国民に厳しい現実を言わず、国民も公共支出は求めるが自分の負担だけは避け、問題を先送りするならば、財政赤字は続き、国債の累積赤字は積み上がるであろう。増税反対は、「正義の味方」、「正論」のように聞こえて心地よいが、「フリー・ランチはない」(タダメシはない)という経済の鉄則を忘れるといずれ大きな代償を払うことになるだろう。