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HATコラム

1.17から3.11へ、そして未来へ

副理事長兼研究調査本部長 室﨑 益輝

副理事長兼研究調査本部長 室﨑 益輝

京都大学大学院工学研究科修士課程終了。工学博士
関西学院大学総合政策学部教授・災害復興制度研究所所長
神戸大学名誉教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 副理事長兼研究調査本部長

未曽有の大災害と言われた東日本大震災が発生してか ら、早くも1年が経過した。大震災はいまだ進行形で、それ からの被害軽減と再生復興のために、力を緩めることなく 持続的に取り組むことが求められている。といって、被災地 の復興だけに目を奪われていてはならない。というのも、南 海トラフ地震や首都直下地震など次の巨大災害が、牙をむ いて待ち構えているからである。今の大震災からの回復を 図りつつ次の大震災への防備を図るという、「減災の同時遂 行」が求められる状況にある。

この状況の中で、3.11の教訓を素早くかつ正しく引き出 して、今の復興と明日の防備に生かすことが喫緊の課題と なっている。この教訓を引き出し生かす上で、「ひょうご震 災記念21世紀研究機構」に課せられている責務は、極めて 大きい。というのも、私たちの研究機構は、大震災からの教 訓を引き出す上で欠かせない3つの条件を具備しているか らである。その3つの条件というのは、総合性、客観性、実践 性の3つである。総合性ということでは、人文社会分野も含 めて幅広い角度からテーマを掘り下げることのできる、柔 軟性に富んだアドホックな研究体制が構築されている。客 観性ということでは、阪神・淡路大震災はもとより他の災害 の経験が蓄積されていて、相対的な視点から他の災害を客 観的に俯瞰できる。実践性ということでは、アウトリーチとアドボカシーの視点を持って、現場の課題に政策的に答え ようとする姿勢を持っている。

ところで、巨大な災害というものは、その社会の抱えてい た課題を、時代を先取りする形で顕在化させる。少子高齢化 社会の問題や一極集中国土構造の問題など、社会的な歪も含めて未来の課題を表に出してくる。それゆえに、その顕 在化した課題に向き合うことを余儀なくさせる。東日本大 震災も例外ではない。それだけに、そこで顕在化してきた課 題を正しく捉え、その解決の方向を見出すことは、未来社会 の方向を定める上で欠かせない。それゆえに、3.11の提起 した課題を狭い意味での防災に限定せず、広く未来社会の あり方にまで視野を広げて、教訓を引き出すことが欠かせ ない。市民社会のあり方、国際社会のあり方、広域行政のあ り方、エネルギー政策のあり方などに、鋭くメスを入れるこ とが求められると言ってよい。

前者の研究展開では、何よりも低頻度という特殊例から、 次に生かせる一般則をいかに引き出すかが鍵となる。東日 本大震災だけに目を奪われてしまうと、次の大震災で裏を かかれてしまう恐れがある。となると、時代や社会の違いを 踏まえつつ過去の大災害との比較を図ることによって、一 般則を導き出すように努めなければならない。関東大震災 や阪神・淡路大震災との相対化が求められる所以である。

低頻度の巨大リスクに向き合う上で、もう一つ忘れてな らないことがある。それは、クライシスマネージメントのあ り方を解明して、それを社会の構えとして身につけること である。今回の震災後の動向を見ていると、想定外の津波が 来てヤマが外れたことから、被害想定の精度を上げるとい うリスクマネージメントに主力がおかれている。しかし、今 回の大震災が投げかけた主要な問題は、ヤマをかけるとい うリスクマネージメントにあるのではなく、ヤマが外れて も凌ぎきるというクライシスマネージメントにあるのであ る。この緊急時あるいは事後のクライシスマネージメント のあり方に、挑戦する姿勢とそれを支える政策が求められ る。ミクロには緊急事態対処のシステム、マクロには政治経 済体制のシステムを捉えなおすことが、ここでは欠かせな い。政治経済体制のあり方ということで、広域連携や国際協 力のあり方が問われている。

後者の近未来の社会創造の課題についても言及しておこ う。「大局着眼小局着手」という言葉がある。少子高齢化問題 あるいはエネルギー問題さらには経済格差問題などにどう 立ち向かうかが、今回の大震災で問われたことは確かであ る。それらの問題は、往々にして一般論として大局から論じ られがちである。しかし、大局論だけでは、現実の問題に対 処しえない。個別具体論というか小局という現場に即して、 その政策化を図ることがなければならない。エネルギーの あり方、市民社会のあり方、産業構造のあり方などを、未来 に向かっての時間軸と地域に密着しての空間軸の両面から 明らかにすることが、私たちに突きつけられている。