• 研究戦略センター
  • 人と防災未来センター
  • こころのケアセンター

HATコラム

国際防災協力体制構築の検討 ~アジアを中心に

片山 裕(研究調査本部政策コーディネーター)

研究調査本部政策コーディネーター 片山 裕

1949年生まれ
京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学
神戸大学大学院国際協力研究科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部
政策コーディネーター

世界では、自然災害によって毎年約1億6,000万人が被災し、約10万人の命が奪われるとともに約400億ドル以上の被害額が発生しています(1970~2008年平均)。また最近の10年間を見ると、1970年代に比べて発生件数、被災者数ともに約3倍に増えています。とりわけアジアでは、約23万人の犠牲者を出した2004年末のスマトラ島沖地震によるインド洋津波災害や約9万人の犠牲者を出した 2008年の四川大地震、そして2011年3月の東日本大震災と、大災害が多発しています。近年(1979~2008年)の世界全体に占めるアジアの被害状況は、発生件数で世界の約4割、死者数の約6割、被災者数の約9割、被害額で約5割にも及びます(内閣府防災情報のページより)。

私どもの研究会は、東日本大震災の際の経験を中心に、海外から日本への支援・協力体制をどのように改善したらよいか、また日本から東アジアを中心とした諸外国への支援をどう構築したらよいか、さらに市民レベルでの防災意識をどのように高めたらよいかといった課題に取り組むべく、昨年4月に発足しました。政府間、自治体間で実現可能な連携と、アジアの隣人として被災地同士の交流、防災活動への取り組みについて政策提言を行うことを目的としています。

共同研究の過程で私どもが学んだことの一つは、防災分野で企業が果たす役割の大きさです。今回の震災によって、東北地方に工場を持つ企業の多くが「サプライ・チェーン」に多大な打撃を受ける一方で、従業員・地元コミュニティへの支援のために多大な努力を払いました。今、世界の企業が「事業継続計画(BCP)」を策定して、災害への備えや対応を事業計画の中心に据えようとしています。財政難で政府や自治体がこれまでのような役割を果たせなくなっているだけに、NPO/NGOの活躍同様、大いに勇気づけられる動きです。企業の防災への積極的な取り組みが国際防災にどのような可能性を持つかは、私どもの研究課題の大きな柱です。

東日本大震災は、いかに最先端の科学技術をもってしても大災害による被害は完全には防げないという当たり前ではありますが、痛烈な教訓を私たちに与えました。津波の猛威に襲われた東北地方にあって人的な被害が少なかったのは、過去の経験を生かして高台に移転したり避難訓練を小まめに行っていたりした地域であったことは、いかに防災意識向上が重要かをあらためて教えてくれました。私どもの研究会には、海外での防災教育に長年携わっているNGOやコンサルタントに加わっていただきました。アジアで、また、日本で今後起こり得る大災害被害を、市民の防災意識の向上によってどう減らしていくかについて実践的な提言を行いたいと思います。

防災は安全保障という観点からも重要なテーマです。国際社会はグローバル・リスク低減のために長年協力してきました。アジアの安全保障枠組の一つである「アセアン地域フォーラム(ARF)」でも、東日本大震災後の協力体制構築に向けて関係国が合意しました。こうした多国間枠組の変化と外務省を中心とした日本政府の取り組みも研究会の中心テーマです。

日本の自衛隊は東日本大震災で在日米軍と並んで目覚ましい活躍を見せ、アジア地域における災害緊急支援で大きな役割が期待される一方、軍事組織は他の手段を尽くした上での最後の手段であるとの考えが防災専門家の間で共有されています。そうした中、軍民協力をどう進めたらよいのか検討することも私どもの課題の一つです。

自治体が国際防災でどのような役割を果たせるかは、兵庫県のシンクタンクだからというだけでなく、自然災害においては最も身近な政府である自治体がなによりも重要であるとの認識から、私どもの強い関心事となっています。先の東日本大震災では、阪神・淡路大震災の教訓がうまく生かせた分野と、そうでない分野との明暗が分かれました。阪神・淡路大震災からもっと多くのことを学び、東日本大震災との関連であらためて国際社会への教訓を発信できるのではないかとの問題意識を研究会のメンバー全員が共有しています。

国際連合国際防災戦略が2005年に兵庫県で開催した世界防災会議で採択された「兵庫行動枠組2005-2015」は防災関係者の「憲法」ですが、この改定作業が現在世界各地で進められています。HAT神戸にあるいくつかの国際機関もその作業に関わっています。私どもの研究会は、この「兵庫行動枠組」が国際防災において持つ役割と課題についても研究しています。

研究会はこうした広範囲にわたる課題に取り組むべく、国際機関、日本政府、自治体、NPO/NGO、民間企業、そして大学関係者20人近くが参加する大所帯です。残りの1年間で、そうした専門性と知見を最大限反映した成果を出せるか、責任重大ではありますが、やりがいのある仕事と思っています。