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HATコラム

「最近の児童養護について考える」

亀岡 智美(兵庫県こころのケアセンター)

和歌山県立医科大学卒業
日本児童青年精神医学会認定医
兵庫県こころのケアセンター副センター長兼研究部長

国の児童相談所における子ども虐待相談対応件数は、約20年間右肩上がりを続け、昨年度はついに6万件を突破した。子どもの人口が減少しているのに、である。これらのうち22.3%の子どもは一時保護され、6.7%に当たる約4,500人の子どもたちは、児童養護施設入所や里親委託などの処遇を受けた。一方現在、全国で約4万7千人の子どもたちが、何らかの事情で社会的養護を受けている。そして、これらの子どもたちの半数以上が虐待を受けた体験を有していることが判明している。

このような世相を反映してか、昨年度放映されたテレビドラマが物議を醸した。虐待環境で育ち、生活の場を求めてやって来たらしい子どもたち数人が生活する施設(グループホーム)がドラマの舞台である。このドラマに対し、赤ちゃんポストを運営している熊本市慈恵病院や全国児童養護施設協議会、子ども虐待防止学会などが、ドラマの中止要請や抗議文・緊急声明などを出していることからも、事の大きさがうかがえる。実際、現在児童養護施設で生活している子どもがこのドラマを視聴した結果、精神不調や体調不良・不登校状態をきたした例も報告されているという。結局、4話以降はCMが打ち切りになるという異様な状況下で、それでも放送は最終回まで続けられた。また現在、放送倫理・番組向上機構に人権侵害の申し立てがなされ、その取り扱いが審議されている。

放送内容に対する意見をまとめるために、我慢をしながらドラマを視聴した専門家は少なくないと思われるが、まず、登場する施設職員や児童相談所職員の、現実離れした、ことさら冷徹で暴力的な言動に驚かされる。さらに、登場する大人のほとんどが何らかの傷つき体験と葛藤を抱えているらしいことが明らかになる。彼らの大部分は、子どものケアどころか、自らの感情と行動を制御することにも汲々としているように見える。彼らは、自らの傷つき体験を惜しげもなく子どもの前で曝露し、子どもたちに支えられながら、その傷を癒やそうともがき苦しむのである。

一方の子どもたちは、といえば、児童精神科医の目から見ると、どの子もそれなりに健康度が高そうだった。表面的にはお互い汚い言葉でののしり合ったりもしているが、自らの葛藤を受け止め、結局はお互いの痛みを分かち合い、助け合っていくのである。併行して、「良い里親にもらってもらう」ことを目指して、サバイバルゲームを展開していく。まるで、よくある学園ドラマをイメージさせる展開であり、なぜ、児童養護施設を舞台にしなければならなかったのかがよく分からなかった。

それでは、現実の児童養護施設の実態はどうなのか。虐待を受けた子どもは、さまざまな精神医学的症状や行動上の問題を呈することが多いため、個別的な配慮が必要になることが少なくない。大部分の子どもたちは、自分が体験したことの意味が分からず、「自分が悪い子だから」施設に入所する羽目になったと思っている。自暴自棄になっている子、諦めと無力感に圧倒されている子、衝動をコントロールできず暴力や自傷を繰り返す子、自分の気持ちに気付くことさえできない子、貝のように心を閉ざしている子、つらい気持ちがまひしてしまい感じることができない子、など、ドラマに登場した子どもとは比較にならないくらい個別性に富んでいる。これらの背後には、何らかの心的外傷関連の症状が潜んでいることが少なくない。虐待されるという体験が、鮮明で断片的な記憶となり、施設に入所して虐待の加害者から保護されても、なおその出来事が昨日のことのようによみがえり、再体験症状や回避症状、過覚醒症状などとなって表出されることがあるからである。このような子どもたちを多く抱えた施設の職員は、疲弊せざるを得ない状況である。

さらに、これらの傷ついた子どもたちに、温かい生活の場を提供するはずの児童養護施設の居住環境が劣悪であることは、多くの専門家の指摘するところである。一人当たりの居住面積の最低基準が2011年から引き上げられて4.95㎡になったとはいえ、養護老人ホームの半分以下である。神戸大学の田中究らは、老朽化した施設が立て替えられて居住環境が改善したことにより、入所児の行動も改善したことを明らかにしている。

このような児童養護施設の実態を直視するのは、誰にとってもつらいことである。しかし、それでも、逆境的な環境で育たざるを得なかった子どもたちに、健全な育ちを保障するために何が必要なのかを、私たち全員が真剣に考える必要があると思う。