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HATコラム

熊本地震からみえた防災上の課題

 阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員・NHK解説委員 山﨑 登

山﨑 登
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員・NHK解説委員


1954年生まれ
法政大学法学部卒業
日本放送協会解説主幹(自然災害、防災担当)
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員

前例のない地震と情報での課題
「平成28年熊本地震」は、過去に例のない展開で熊本から 大分にかけて強い地震が続いている。

最初の地震は4月14日の午後9時26分ごろに熊本県熊本地方で起きた。M6.5、益城町で震度7を観測した。気象庁は『今後、1週間程度は震度6弱程度の余震に注意してほしい』と呼び掛けた。しかしその後も強い地震が続き、16日の午前1時25分ごろには、M7.3、益城町と西原村で同じく震度7を観測する地震が発生した。M7.3は平成7年の阪神・淡路大震災と同じ規模の大地震で、気象庁は、この地震の後、『この地震が「本震」で、14日の地震は「前震」だった』と記者会見した。

通常、最初に起きた大きな地震を「本震」と呼び、その後に多くの「余震」が起きる。「余震」は「本震」よりも一回り小さく、次第に少なくなっていく。しかし今回は「本震」の前に、前触れといえる「前震」が起きた。

気象庁が前に起きた地震を「前震」だと発表した例は過去にもあった。平成15年7月26日の深夜0時13分ごろ、宮城県北部でM5.6、鳴瀬町と矢本町で震度6弱の地震が起きた。この地震の後、気象庁は「余震確率を発表し、震度5強程度の余震に注意」と呼び掛けた。しかしその日の午前7時13分ごろに、M6.4、鳴瀬町、矢本町、南郷町で震度6強を観測する地震が起きた。さらにその日の午後4時56分ごろには、M5.5、河南町で震度6弱の地震が起きた。結局、最初の地震が「前震」、二番目が「本震」、三番目は「最大余震」と整理された。

「現在の地震学では地震が起きた時に、それが前震であるかどうかを判断することは難しい」とされるが、NHKが熊本地震で5月1日までに亡くなった49人について調べたところ、14日の地震でいったん避難した後自宅に戻り、その後に16日未明の地震で死亡した人が少なくとも全体の4分の1に当たる12人にのぼることが分かった。遺族や知人の話では「もう大きな地震は起きないだろう」とか「車の避難に疲れた」などと話して自宅に戻った人がいたという。

14日の地震の後、気象庁が「震度6弱程度の余震に注意」を呼び掛け、被災地では最初の地震よりも小さな地震に注意していた中で、それよりも大きな地震が起きて被害が広がったことを考えると、地震が起きた後に出す情報に防災上の課題が残ったといえる。

強い地震の連続と住宅の耐震化の重要性
熊本地震の大きな特徴は強い地震が連続していることだ。4月14日から30日までの2週間あまりで、震度6弱以上を観測した地震が7回、震度1以上の地震は1,079回に達した。

この影響で住宅など建物の被害が大きくなっている。4月30日の段階で全半壊した住宅は4,925棟、一部損壊まで合わせると1万2,601棟に達している。また公共の建物の被害も94棟あって、益城町や宇土市など5つの市と町では庁舎の移転を余儀なくされた。

工学院大学が被害の大きかった益城町で調査したところ、昭和56年以前の古い耐震基準で建てられた住宅の大半が「倒壊」や大きく壊れる「大破」だった。さらに昭和56年以降の新しい耐震基準の住宅でも、壁の配置や柱の固定方法などの基準が強化された平成12年以前に建てられた住宅は、「倒壊」と「大破」が合わせて60%から70%に達し、平成12年以降の建物でも20%から30%が「倒壊」と「大破」していた。震度7が2回観測されるなど強い地震が連続して起きたことで、ある程度耐震性のある建物も持ちこたえられなかった。

4月17日までに、建物の被害によって熊本県内で死亡が確認された41人について警察が死因を調べた結果、最も多かったのが押しつぶされて亡くなった「圧死」で半数近い20人、次いで体を圧迫されたことによる「窒息」が11人で、大半の人が建物の倒壊に巻き込まれ、下敷きになったり挟まれたりして亡くなっている。

この被害状況は平成7年の阪神・淡路大震災と同じだ。阪神・淡路大震災では25万棟に及ぶ住宅が全半壊し、地震発生の当日だけで5,000人以上の人が亡くなったが、そのほとんどが壊れた住宅や家具などの下敷きになって亡くなった。したがって阪神・淡路大震災の最大の教訓は住宅など建物を地震に強くすることだったが、平成25年の段階でも全国の住宅の耐震化率は82%にとどまり、いまだに5軒に1軒は現在の耐震基準を満たしていない。

東日本大震災以降、多くの自治体や住民の関心の重点が津波対策に移っているが、住宅など建物を地震に強くすることが、地震防災対策の根幹だということを熊本地震が改めて教えている。