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HATコラム

南海トラフ地震に対する復興のグランドデザインと事前復興計画のあり方

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター震災資料研究主幹 牧 紀男

牧 紀男
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター震災資料研究主幹


1968年生まれ
京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻博士課程指導認定退学 博士(工学)
京都大学大学院助手、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、
防災科学技術研究所地震防災フロンティア研究センター研究員等を経て、
京都大学防災研究所都市防災計画分野教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター震災資料研究主幹

今年度から、私を研究代表として2年間の研究調査プロジェクト「南海トラフ地震に対する復興のグランドデザインと事前復興計画のあり方」が始まった。神戸大学博士課程の磯村和樹さんが本研究の研究員として新たに着任されている。磯村さんは「失われた街」という被災したまちの模型を作り、まちの記憶を残すというプロジェクトを実施してきた人であり、災害後のまちの記憶継承をテーマに研究活動を行っている。

東日本大震災は、人口減少社会における復興の大変さ、災害前から復興・まちの将来について考えておくことの重要性を再認識させてくれた。西日本では南海トラフ地震の発生待ったなしという状況にある。東日本大震災の教訓を踏まえ、災害前から復興について考えておこうというのが本調査研究の趣旨である。

復興というと、後藤新平による関東大震災後の東京の復興都市計画が有名であるが、戦前から高度成長期まで、災害復興は都市を物理的に改良する機会でもあり、「災害復興=都市改造、都市計画」であった。経済が成長していくことが復興を考える際の既定条件であり、経済成長に適したまちをつくることが復興であった。1959年伊勢湾台風の復興計画はまさに開発計画であった。しかし、95年の阪神・淡路大震災くらいから様子が変わってくる。都市開発をしてもまちの活力が戻らない。東日本大震災では、まちを再建しても人・ビジネスが戻ってこないという問題が発生している。

現在の復興は、地域の活性化も含めたより総合的な観点から考えることが求められている。本研究では経済や地域活性化の専門家にも参画いただき、より総合的に復興を考える体制で研究を進めている。研究に参画する委員は下記の通りである。加藤孝明(東京大学)〈事前復興〉、姥浦道生(東北大学)〈東日本大震災の復興の教訓〉、永松伸吾(関西大学)〈公共政策・経済学〉、佐々木晶二(国土交通政策研究所長)〈都市計画・防災法制〉、高見隆(兵庫県)〈地域防災〉、長坂泰之〔(独)中小企業基盤整備機構〕〈まちの活性化〉。また、多くの防災分野の先生方にも協力委員として参画をいただいている。

現在、防災を考える際のキーワードは「リジリエンス」である。「しなやかさ」が適訳だと思うが、時として「強きょうじん靱性」と訳されることもある。これまで防災が目標としてきた「命」「財産」を守ることに加えて、「業務」「地域の営み」も守ろうというのが「リジリエンス」という考え方の肝である。企業や行政機関で「業務」を守るため「業務継続計画、BCP」が策定されるのは「リジリエンス」という考え方に基づくものである。災害後の「地域の営み」を守るのが「復興」であり、地域では「事前復興計画」を策定することが求められている。

「業務」「地域の営み」を防災の目標とする場合、これまでの「命」「財産」を守るという対策とは趣きを異にする。「命」「財産」を守ることを目標とする場合、目標は明確で「人が死なない」「家が壊れない」ということが求められる状態である。しかし「地域」を守るといった場合には、どういった状態が「地域の営み」を守ることになるのかがよく分からない。地域が消滅しなければ良いのか、災害前の状態に戻れば良いのか、災害前よりも良くなることなのか、その定義から始める必要がある。本調査研究では「どういった地域となるのを善とするのか、人口減少時代・21世紀後半の地域のあり方」=「復興のグランドデザイン」について考えることから始める。委員に加えて、今後の社会のあり方について論考、提言を行っているさまざまな識者の意見も踏まえて、「人口減少時代・21世紀後半のあるべき地域の将来像」について考えたい。

「事前復興計画」とは、「目指すべき地域の姿」に対して、地域の実状はどうなのか、ということについて検討し、「目指すべき地域の姿」を実現するための対策を検討したものである。南海トラフ地震・人口減少・環境問題等、設定した目標を実現するためにはさまざまな障害が存在する。設定した目標と現実の間の「ギャップ」を分析し、さらに「ギャップ」を乗り越えるための対策の検討を、兵庫県内の自治体を事例に実際に検討を進めていきたい。事例検討の成果も踏まえ、実際に役立つ「事前復興計画」のあり方についての検討を進めていきたいと考える。