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HATコラム

「県民意識調査」は宝の山

研究調査本部 政策コーディネーター 阿部 茂行

阿部 茂行
研究調査本部 政策コーディネーター


1948年生まれ
ハワイ大学経済学博士
同志社大学政策学部・総合政策科学研究科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部政策
コーディネーター

政府や公的機関ではそれぞれが保持するデータは原則オープンとして積極的な公開を進めている。そこまではいかなくともリクエストを出せば、パソコンで読み込み可能なデータを提供してくれる地方自治体も多くなってきた。オープンデータの推進によって政府や公的機関の透明性を高め、また、民間活動の支援につながるなどの効能が期待されている。

現在、当機構で「人口減少、少子・高齢化社会におけるライフスタイルと社会保障のあり方について」というプロジェクトを進めているところであるが、このプロジェクトの中で、高齢者にとってのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の研究を担当している。当初は新しくアンケート調査をする予定であった。時間的にも予算的にもどうも大変なことになる。そして調査票を送っても回収率が思うように上がらず、悪くすると10%を下回るかもしれない。そう思いアンケートを取ることに消極的になっていた矢先、県で毎年意識調査を実施していることに気が付いた。それも、「県民意識調査」と「兵庫のゆたかさ指標」の2種類ある。調査票は無作為に5,000人を抽出し、郵送しているという。驚くべきことにこの回収率が毎年7割を超えている。聞いてみると、頻繁にはがきでリマインダーを出しているとのこと。それにしても7割はすごい。

で、この意識調査の個票が利用できないだろうかと県に問い合わせたところ、平成20年から27年までの個票データをエクセルのフォーマットで提供していただいた。中を見てみると小躍りするような豊富なデータが満載である。まだ十分な分析はできていないが、年齢を5歳刻みで分析、また2次元集計を、3次元、4次元に組み替えるだけで、高齢者のQOLについて得たかった次の事実が分かった。

① 高齢期における望ましい生き方については、80歳になって意識が変わっている。「年齢や知識を仕事に活かす」「都合の良いときにだけ働く」「知識や経験を地域活動などに活かす」「趣味やスポーツなどを満喫する」などの項目は明らかに79歳までとは異なり、「そうしたい」との回答が少なくなっている。

② 3次元集計をして、所得に満足しているグループとそうでないグループに分け、『少子・高齢化社会においてどのような社会が望ましいか』に対する回答を整理したところ、「満足」と答えたグループは「子どもから高齢者までの多世代が交流し、助け合う社会」が多いのに比べ、「不満足」と答えたグループは「弱者に対する思いやりがある社会」「経済的な豊かさが感じられる社会」との回答が多い。『望ましい生き方は何か』という問いに対しては、「満足」と答えたグループはほぼ全ての項目で「不満足」と答えた グループ以上に積極的な回答をしている。例えば、「友人・仲間との交流を深める」や「趣味やスポーツなどを満喫する」などである。

③ 高齢社会に対する対策については、この2つのグループでは反応が異なる。「満足」と答えたグループは、「生涯を通した健康づくり」「生涯学習など生きがいづくり」「社会参加活動の推進」「高齢者の孤立を防止するための地域の仕組みづくり」と回答。一方、「不満足」と答えたグループは、「高齢者の雇用」「公的年金の充実」「老人医療の確保」「高齢者が暮らしやすいまちづくりにすべき」と答えている。

要するに、80歳までは普通に活動し、経済的に余裕がある高齢者はQOLを良くして生活をエンジョイしているようで、余裕のない高齢者は行政からの助けをより強く求めている実態が浮き彫りになっている。

平成不況、失業、倒産、孤独死、介護殺人等々、最近の日本はどうも陰いん鬱うつな文字が新聞の紙面を飾る。欧米と比べて日本は何が違うか?昔からそうであるが、日本は表面的な平等を尊ぶ。いくら健康であっても定年になれば会社を辞めないといけない。年齢による平等である。一方、アメリカでは性、年齢、人種での雇用上の差別は許されていない。あくまで健康で働けるなら、何歳になろうが仕事を続けることが普通である。アメリカでは所属先がなくとも自分の能力を細切れに売るフリーランスが労働人口の3分の1もいる。企業の都合のいい制度、年齢により平等なので文句が出にくい制度がまかり通り、どうも効率性が犠牲になっているような気がする。少子高齢化社会を乗り切るためにも、これを是正することが喫緊の課題である。労働者側も、「寄らば大樹の陰」的発想はやめ、自己の能力を高め、フレキシブルに生きる、そしてそれが尊ばれる社会を構築すればいいだけの話だ。

表面的平等から健康序列による効率的な社会を築くことが、人口減少、少子・高齢化社会を生き抜く道である。