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HATコラム

災害による被災危険性の存在を周知する

副理事長 兼 阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長 河田 惠昭

河田 惠昭
工学博士
関西大学社会安全学部・社会安全研究センター長・特別任命教授(チェアプロフェッサー)
京都大学名誉教授
中央防災会議防災対策実行会議委員
京大防災研究所長、日本自然災害学会および日本災害情報学会会長を歴任
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 副理事長 兼 阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長

今年6月から、大阪北部地震、西日本豪雨、台風20、21および24、25号、北海道胆振東部地震など3か月足らずの間に連続災害がわが国を襲った。起こる度ごとに、被害は想定外という言葉が乱発された。本当に想定外だったのだろうか。たとえば、ブロック塀の下敷きになって亡くなった4年生の女子児童、バックウオーター現象で溢れた小田川の氾濫で犠牲になった真備町の51人、台風21号の高潮と高波で浸水した関西空港、そしてブラックアウトした北海道電力の災害や事故などは予見されていたものだった。ただし、対策は取られず、放置されていた。このような被害が発生しても、いつの間にか起こったこと自体も忘れ去られていく。どこに問題があったのかを明らかにしなければ、再発は避けられない。しかもその時は、以前よりも被害が大きくなりがちである。そして、被害が発生して、初めて危険であったことに気づいたような雰囲気がいつも漂っている。だからその危険の深刻さが最終的には官邸にも伝わらない。彼らが相変わらず初動重視の評価しかできないのはその証拠であろう。

今から23年前に起こった阪神・淡路大震災は、地震時に古い住宅が凶器になることを教えてくれた。それまで、地震災害の専門家でそのようなことを言っていた人は皆無だった。だから、相変わらず消防庁の標語が“地震だ。火を消せ”であったことがその証拠である。火災さえ起こらなければ、1923年関東大震災のような悲劇は起こらないと考えられていた。

多くの犠牲者が出て、住宅の耐震化が地震防災の切り札になった。わが国は、このようなことを繰り返しながら、安全な国になってきているのだろうか。そうではないと思う。なぜなら、冒頭に紹介した6月以降の災害で起こった“想定外”はかつてわが国のどこかで一度は起こったことがあるからだ。あるいは、危なくなっているという予見の下で検討された過去がある。その被害が小さければ、無視されてきたのである。

例を挙げよう。大阪の高潮恒久計画における計画高潮(潮位偏差)は3mであり、これが台風期の朔望平均満潮位であるO.P.+2.2mのときに重なれば、O.P.+5.2mが高潮対策の基準高さとなる。その値に問題がることがわかってきた。その経緯を紹介しよう。地球の温暖化の進行によって海面上昇などの影響を考慮するために2007年に39名の委員・アドバイザーからなる大阪湾高潮対策協議会が設立され、その検討は高潮だけでなく津波や洪水に拡大され、2018年3月まで継続した。

この3mは1934年の室戸台風のコースを上陸時の中心気圧が930hPa の伊勢湾台風モデルが通過するときの大阪湾奥・天保山の最大潮位偏差である。当時はコンピュータがなく、手計算でこの1ケースだけを計算した。筆者は今から30年近く前に室戸台風のコースを西方向に40㎞平行移動すると(土佐湾の中央部に上陸)、80㎝高くなり、3.8mになることを見出した。すなわち、恒久計画を作った当時の判断基準の値より大きく、危険であることが明らかになった。関連の研究成果も存在する。

これらの事実は、防潮システムが完成した1970年代にはわからなかったのである。わかりやすく言えば、現状の大阪は高潮に対して、過去に考えていた以上に危険であるということである。本来であれば、防潮堤などをかさ上げしなければならないはずある。今回の台風21号はそれを証明してくれた。第二室戸台風は上陸時と大阪最接近時の中心気圧は925と937hPaであり、最高潮位はO.P.+4.12mであった。ところが、台風21号はそれぞれが、950と965hPa、O.P.+4.23mとなり、台風の勢力が第二室戸台風よりも小さく、したがって吸い上げによって30㎝ほど低くなるはずが、高潮は逆に大きくなったのである。それは、堺市でO.P.+4.6m、西宮市でO.P.+5mを記録したことでもわかる。

このようになることは10年くらい前からわかっており、大阪湾の防潮堤のかさ上げの必要性などをことあるごとに主張し、それに関係して関西空港の浸水危険性についても指摘してきた。しかし、現実は無視であって、そのような危険性が存在することすら広く知らされてこなかった。これは、南海トラフ巨大地震についてもいえる。大阪には高さ3.8mの津波が来襲するということが明らかにされ、朔望平均満潮時に来れば、O.P.+6mになって現在の防潮堤を越流する。その危険性を回避するための作業は、津波避難ビルの指定だけで終わっている。つまり、現状では、過去に想定していた高潮や津波が来襲すれば、実際はもっと高くなり、市街地氾濫の危険がかなり高くなっているのも関わらず、放置されていると言ってよい状態である。

誰が、あるいはどの組織が対策をしなければならないのか、そして対策をしないのであれば、被害を受ける可能性のある人びとに、その危険の存在を周知・徹底する必要があろう。ところが現状では、後者さえ放置されている。このような状況が許されるわけではない。それを許さないような世論を喚起しなければ、ますます危険社会が拡大する。