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HATコラム

最近の台湾の地震~2016年高雄美濃地震と2018年花蓮地震~

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員 清野 純史

清野 純史
1957年生まれ
京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了
工学博士
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記
念人と防災未来センター上級研究員

2016年と2018年、奇しくもs同じ2月6日、それぞれ台湾南部の高雄市美濃区と台湾東部の花蓮市を震央とするMw 6.4とMw6.3の地震が発生した。震央と台湾の主要都市との位置関係の概略を、近海のプレートとともに図1に示す。台湾の北東では、琉球海溝を境にフィリピン海プレートが沈み込む一方、台湾南部では西からユーラシアプレートが沈み込む形となり、そのひずみの蓄積により内陸でも多くの地震が発生する。1999年に台湾中部を中心に未曽有の被害をもたらした集集地震もその例である。2016年高雄美濃地震では、雲林草嶺において台湾の中央気象局で用いられている震度階級6が観測され、地震による死者が117名にも及ぶ大きな被害が発生した。この地震全体の死者の9割以上に当たる115名は、台南市永康区の16階建てのビルの倒壊によるものである。一方、2018年台湾花蓮地震では、花蓮駅近傍で震度階級7が観測され、17名の犠牲者が報告されている。不思議なことに、双方とも周囲の低層家屋の被害はほとんど生じていない。ちなみに、日本の気象庁震度階級は1948年の福井地震を受けて、1949年から震度7を含む8段階に改訂(現在は1996年以降震度5と6の強弱の分類により10段階)されたが、台湾の震度階級は1949年版の日本の「気象庁震度階級」における0~6の7段階に、1999年集集地震以降に改訂された震度7を加えた8段階に分類されているもので、歴史的な経緯からも基本的には日本の震度階級と同等のものである。ここでは、2つの地震について、台湾国立成功大学(NCKU)と共同で現地調査を行った内容を記す。


図1  2つの地震の震央と近海のプレート

2016年高雄美濃地震および2018年花蓮地震で倒壊したビルの様子を示したものがそれぞれ写真1と写真2である。写真1の維冠金龍大樓は地上16階地下1階建てのビルで、写真2の雲門翠堤大樓は、12階建てのビルである。RC造のビルの階数と固有周期の関係にはさまざまな提案式があるが、前者は概略1.0~1.4秒程度、後者は0.7~1.1秒程度と予想される。

2016年高雄美濃地震で倒壊した維冠金龍大樓の立地場所は、良好な固い地盤を有する台南台地から東に数km離れた場所である。その昔台南台地が島でありその周囲は海であったこと、また2018年花蓮地震で大被害を受けた雲門翠堤大樓は、旧河川の地盤上に建てられていたことも古地図から分かった。その意味で、両者とも地盤条件が良好とは言えない場所に立っていたことになる。

地震による被害は、マグニチュードで示される地震そのものの規模だけでなく、震源から工学的基盤面に至る伝播経路の特性や、工学的基盤面から地表面に至る堆積層の地震波の増幅、すなわちサイト特性に大きく影響される。そのサイト特性の一つである当該地盤の卓越周期を推定する手法として、近年では常時微動観測がよく用いられている。地盤は風や波浪などの自然現象や、交通機関や工場の機械などの人工的な振動により常にわずかに揺れており、この時間的に定常な、ほぼあらゆる地点で観測が可能な微動計測は、地盤調査の有用な手段の一つになっている。2つの地震の現地調査では、2016年高雄美濃地震における台南市内の地震計のデータや周辺地域のボーリング調査の記録がある地点を対象に106点、2018年花蓮地震ではほぼ市内を網羅する形で81点の常時微動観測を行い、観測で得られた微動スペクトルの水平成分と上下動成分の比であるH/Vスペクトル比から、地盤の卓越周期を求めた。その結果、維冠金龍大樓近辺の地盤の卓越周期は1秒前後、雲門翠堤大樓近傍の地盤の卓越周期は0.8秒前後と、前述の建物の固有周期の範囲と良い一致を示した。さらに、地震波自体もこのような周期成分を多く含んでいることも分かった。

すなわち、両地震とも地震波の周期成分、当該地盤の卓越周期が、建物の固有周期に近いため、地盤と構造物の共振を含む相互作用により、構造物被害が拡大した可能性があることが分かった。

我々が暮らす建物は、地震に対して安心して住めるものでなくてはならず、そのためには建物の耐震性は言うに及ばず、その建物が立っている地盤の特性も十分に把握しておくことが肝要であることを再確認させてくれた地震であった。


写真1 倒壊した維冠金龍大樓 
(台湾国立成功大学・呉建宏教授提供)


写真2 大きく傾いた雲門翠堤大樓
(台湾国立成功大学・陳冠宇氏提供)