2008年9月にリーマンショックが起きたとき、1929年のニューヨーク株価暴落を想起する論説が目立った。その後、先進国経済が軒並みマイナス成長に陥ったことが明らかになり、世界的なデフレを懸念する声も出た。
大恐慌期のアメリカは、まさに”大デフレ”であった。大恐慌というと大幅なマイナス成長と25%を越す失業率などが頭に浮かぶが、実は、これらの事実に関心が強まったのはケインズ経済学以降のことである。むしろ、30年代の各国では、最大の関心事は物価の下落だった。29年から32年の期間で、アメリカの名目GNP(国民総生産)は44%も縮小し、卸売物価は40%、企業収益は50%、輸出は36%も下落した。
疑いようのない「大デフレ経済」が出現したのである。
S30年代のデフレはアメリカだけの問題ではなかった。イギリス、ドイツ、日本などほとんどの主要国で物価が下落した。また、先進工業国に資源を輸出していた国は資源価格の暴落により国内経済が困窮した。ただ、この中にあって、ドイツだけは30年まで物価が持ちこたえ下落幅も相対的に小さかった。33年に首相に就任したヒトラーによる賃金の下落防止、軍事支出の増大といった政策が功を奏したのである。
なぜ30年代に世界的規模の大デフレ経済が出現したのか。米経済学者のキンドルバーガーが指摘した”ビッグストーリー”はこうだ。
ここでアメリカが集めた富を需要に転換していたならば、世界全体での需要不足は免れたかもしれない。しかし、アメリカはそれをせずに金を貯めこんだ。恐慌に陥った後も、国内産業保護を目的に関税を引き上げるなど、需要拡大時の恩恵の配分をヨーロッパにも途上国にも拒絶した。
現在の世界同時不況の例に立ち戻ってみよう。
世界同時不況は現在も進行しているが、OECD(経済協力開発機構)は、主要国について2010年度の景気回復を予測している。アメリカの金融資産価格の下落が世界に撒き散らしたマイナスの資産効果は、資産価格の持ち直しに伴って薄れている。加えて、中国やインドが成長に復帰しつつある。30年代とは違って、富の分配が進むと同時に、需要が喚起されているのである。また、世界経済の一体化が進んだが故に、主要国間で拡張的経済政策への協調ができており、世界規模でのニューディールが進んでいると見ることができる。
今からさらなる大デフレが訪れるとするような説に根拠はなさそうだ。