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研究戦略センター 研究調査部

research division

21世紀文明シンポジウム

紛争・対立がますます激化する世界情勢下にあって、共生社会の実現に向けた諸課題に関する県民の関心の高いテーマを取り上げて、多面的な議論を通じて21世紀のあるべき文明や文化について考えるシンポジウムを開催し、その成果を広く発信します。

令和7年度の開催結果

2月19日(木)、神戸市中央区のラッセホールにおいて「令和7年度21世紀文明シンポジウム~気候変動対策 未来を守るための私たちの選択~」を開催しました。会場とオンライン配信を合わせて約400名の参加を得て、気候変動問題の解決に向けた実践的な取り組みについて、活発な議論が交わされました。

日時 令和8年2月19日(木)13:00~16:50
場所 ラッセホール(神戸市中央区中山手通4-10-8)
テーマ 「気候変動対策 ~未来を守るための私たちの選択~」
参加者 400人(来場120人、オンライン280人)

内容

1 開会挨拶

牧村 実   (公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 理事長

2 基調講演

「気候変動問題と私たちの将来 ~持続可能な社会に向けた変革と道筋~」
長谷川 知子   立命館大学総合科学技術研究機構教授

3 パネルディスカッション
コーディネーター
:
増原 直樹 機構研究戦略センター長・東京大学名誉教授
パネリスト
:
竹内 昌義 東北芸術工科大学デザイン工学部教授 / エネルギーまちづくり社代表取締役
前川 翔太 福井県坂井市生活環境部環境推進課主事
木原 浩貴 たんたんエナジー株式会社代表取締役 / 総合地球環境学研究所客員准教授
安福 武之助 株式会社神戸酒心館 代表取締役社長
全体総括
:
増原 直樹 パネルディスカッションコーディネーター

基調講演

長谷川知子氏による基調講演では、気候変動がもたらす現実を科学的に詳しく説明されました。

長谷川氏は、気候変動による影響が既に「不可逆的」な段階に入っていることを強調。海面上昇や海洋の深海との熱塩循環停止など、現在進行中の現象を具体例として挙げました。2015年のパリ協定における1.5度・2度目標、そして2050年代のカーボンニュートラル実現という国際的目標が、単なる政治的約束ではなく科学的必然性に基づいていること明らかにしました。

カーボンニュートラル達成に向けては、エネルギーシステムの根本的変革が必須である一方で、農業や鉄鋼製造といった、どうしてもCO2排出が残ってしまう産業分野については、直接空気回収(DAC)など補完技術の活用も必要とされました。ただし長谷川氏は「吸収・除去技術に過度に依存してはならず、基本的な気候変動対策の早期かつ大規模な実行こそが優先されるべき」と強調。また、食糧危機と言えばアフリカをイメージするかもしれないが、気温上昇の影響でインドの飢餓進行という深刻な危機をもたらしていることを紹介するなど、気候変動と食料問題の関連性についても専門的に言及し、グローバルな視点での総合的課題解決の必要性を示唆しました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションは、増原直樹氏がコーディネーターを務め、全国でそれぞれの分野を牽引する4名のパネリストが登壇しました。

竹内昌義氏は、建築分野における断熱性能向上を主題に発表。日本の建築物の断熱水準が国際基準に比べて大きく遅れていることを指摘し、具体的な断熱素材の活用方法や補助金制度の実務的な活用法を紹介しました。特に、子どもたちが自らの学校の断熱改修プロジェクトに参加することで、快適な学習環境を自分たちで作る「学校断熱ワークショップ」の重要性を強調し、この取り組みが、グッドデザイン賞の「2025グッドフォーカス賞[防災・復興デザイン]」を受賞したことも報告しました。
前川翔太氏は、福井県坂井市での気候変動教育の先進的取り組みを報告。市職員と大学教員が連携して実施する小中学校での授業が、単なるエコ行動の指導ではなく、子どもたちが「未来をいかに構築するか」を考える「シチズンシップ教育」と組み合わされていることを紹介しました。重要な点として、授業実施後の効果検証を継続的に実施し、課題と解決事例を積み重ねている手法が示されました。
木原浩貴氏は、地域新電力事業と気候コミュニケーションについて発表。心理学的観点から「人はなぜ気候変動問題を理解しながらも行動に踏み出せないのか」という根本的な問いを提示しました。認知的不協和(矛盾する情報に直面した際の思考停止)の概念を導入し、脱炭素社会を「負担」ではなく「社会のアップデート」として捉え直すことの重要性を強調。丹波・丹後地域でのエネルギー事業を防災やスポーツ支援などの地域課題と有機的に組み合わせることで、包括的な価値創出を実現している事例を紹介し、令和7年度には、これらの取り組みが環境省の「脱炭素先行地域」に選定されたことも報告しました。
安福武之助氏は、「環境に負荷を与えないで、美味しい日本酒を作る」経営哲学を強調しました。この一見矛盾する目標の達成に向けて、SDGsへの先進的な取り組みを実施。杜氏(とじ)から社員による酒造りに転換を迫られる中で、水やエネルギーの使用及びCO2排出の削減と売上拡大の両立(デカップリング)に成功しました。気候変動の影響を受けやすい水資源確保の課題に直面しながらも、持続可能な事業運営に向けた継続的な創意工夫を行っています。

パネルディスカッション終盤では、各パネリストから参加者へのメッセージが発信されました。

竹内氏は、「脱炭素化を『誰かが対応してくれるだろう』と受動的に考えるのではなく、個人の投資判断を通じた『暮らしのイノベーション』が重要である」と訴えました。断熱改修にはお金がかかるが、健康と快適性、そして経済的リターンの面でも必ず回収できるとし、希望を持って自分事として取り組むことを強調しました。

前川氏は、気候変動問題は、行政だけでは解決できない課題であり個人の協力が欠かせないこと、そして坂井市の「寄付市民参画制度」のように市民からの提案が事業化される仕組みの重要性を示唆。「皆さんが持つその思いは他の人に伝播する。まずはこの思いを持ち続けることから始めよう」というメッセージを投げかけました。

木原氏は「限られたものの中からどう減らすか、どう我慢するかではなく、『こういう選択肢があるよね』という選択肢そのものを作っていくことが重要」と強調。具体的には、酒屋で「このお酒置いていないの?」と聞いてみるように、学校の電気を再生可能エネルギーにする選択肢がないなら、周囲の人や議員、教育委員会と話しながら選択肢を作ろうとアクションすることを提起しました。

安福氏は「サステナブルであることはコストではなく、価値であり、選ばれる理由である」「ブランドは企業の姿勢である」と述べました。企業経営の観点から、消費者が環境配慮型商品を購入したいという意思は多く見られるものの、実際の行動に繋がりにくい現状があり、この態度と行動のギャップを埋めることが課題であるとして、サステナビリティを新たな付加価値として社会に提示していくことの重要性を示しました。

全体総括

最後に増原コーディネーターは、「多くの人が『誰かが解決してくれるだろう』という漠然とした期待を持ちがちであるが、脱炭素社会の実現は、足元からの断熱改修、持ち続けた思いの他者への伝播、新しい選択肢の創造、そして環境配慮型商品への投資という、一人ひとりが積み重ねるアクションによってのみ可能になる。これは決して「我慢」ではなく、より快適で健康的で、そして経済的にも返ってくる「賢明な選択」であることが本日の議論を通じて明らかになった」と総括しました。

過去の開催実績

開催日
(年度)
開催地 テーマ 基調講演 パネルディスカッション 総括、※その他
R5.2.24
(R4)
大阪市 気候変動・地球環境問題への対応 ~今何が起き、どう向き合うべきか~ 「今、気候変動で何が起き、私たちはどうしたらいいのか」
江守 正多(東京大学未来ビジョン研究センター教授/国立環境研究所地球システム領域上級主席研究員)

〇江守 正多(東京大学未来ビジョン研究センター教授/国立環境研究所地球システム領域上級主席研究員)

・井上 雄祐(環境省地球環境局脱炭素ライフスタイル推進室長)

・正木 明(気象予報士/防災士)

・綿田 圭一(カゴメ株式会社品質保証部環境システムグループ)

・乾 彩海(Re.colab KOBEメンバー/関西学院大学人間福祉学部社会福祉学科1年)

五百旗頭 真((公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長)

R6.2.20
(R5)
神戸市 気候変動問題と社会の大転換 「人新世の新しい生活創り、人間・自然を重視する脱成長経済へ」
斎藤 幸平(東京大学大学院総合文化研究科准教授)

〇宇佐美 誠(京都大学大学院地球環境学堂教授)

・小嶋 公史((公財)地球環境戦略研究機関関西研究センター副所長/プログラムディレクター)

・大久保 規子(大阪大学大学院法学研究科教授)

・更家 悠介(サラヤ株式会社代表取締役社長/NPO法人ゼリ・ジャパン)

・向山 遙温(NPO法人夢ノ森伴走者CUE代表理事/兵庫県環境審議会公募委員)

五百旗頭 真((公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長)

R7.2.18
(R6)
神戸市 気候危機と社会の行方 「環境、経済から気候危機を考える」
諸富 徹(京都大学大学院経済学研究科教授)

〇諸富 徹(京都大学大学院経済学研究科教授)

・山野 博哉(国立研究開発法人国立環境研究所生物多様性領域上級主席研究員/東京大学大学院理学系研究科教授)

・工藤 泰子(元日本気象協会主任技師/気象予報士)

・関山 健(京都大学大学院総合生存学館教授)

・三上 直之(名古屋大学大学院環境学研究科教授)

-
R8.2.19
(R7)
神戸市 気候変動対策 ~未来を守るための私たちの選択~ 「気候変動問題と私たちの将来 ~持続可能な社会に向けた変革と道筋~」
長谷川 知子(立命館大学総合科学技術研究機構教授)

〇増原 直樹(兵庫県立大学環境人間学部准教授)

・竹内 昌義(東北芸術工科大学デザイン工学部教授/エネルギーまちづくり社代表取締役)

・前川 翔太(福井県坂井市生活環境部環境推進課主事)

・木原 浩貴(たんたんエナジー株式会社代表取締役/総合地球環境学研究所客員准教授)

・安福 武之助(株式会社神戸酒心館 代表取締役社長)

増原 直樹(兵庫県立大学環境人間学部准教授)