学術交流部
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知的交流発信事業
令和7年度の開催結果
令和7年度「21世紀減災社会シンポジウム」
津波から命を守るために~東日本大震災15 年・次の巨大地震への教訓の開催結果
令和7年度21世紀減災社会シンポジウムを、「津波から命を守るために~東日本大震災15年・次の巨大地震への教訓」をテーマに、1月23日、仙台市戦災復興記念館で開催しました。

○基調講演
東北大学副学長で災害科学国際研究所教授の今村文彦氏が「東日本大震災に学ぶ~津波の脅威から身を守る~」と題して基調講演を行いました。

今村氏は、東日本大震災が地震・津波・原発事故という複合災害であったことを改めて確認した上で、津波のメカニズムについて科学的に解説。「津波は一定の猶予時間があるため、適切な判断と行動が取れれば人的被害をゼロにできる。しかし、それが非常に難しい」と指摘し、津波避難の課題を浮き彫りにしました。
また、津波避難の要点として「津波スクリプト」と「避難認知マップ」の作成を提案し、「災害発生前から発生後までの時系列的な変化を自分の中でイメージし、スクリプトとして書き出してみることで、次の行動が判断しやすくなる」と説明しました。
○朗読
続いて、仙台市職員などによる自主研究グループ「Team Sendai」が、震災時の体験を朗読という手法で伝えました。避難所での町内会長の奮闘、現場で汗を流した保健師の記録、当時の仙台市長が語った「神戸から受け継いだバトンをもう一段上げて次へ」という決意。
公的な記録には残りにくい、しかし大切な記憶が、丁寧に語られました。「民話や祭りなどのように、人が人に直接伝えることで、100年後、1000年後にまで伝えることができる」というメッセージは、会場に深い感動を呼びました。
○パネルディスカッション
当機構研究戦略センター長の御厨貴センター長がコーディネーターを務め、4名のパネリストが登壇しました。

京都大学防災研究所副所長の矢守克也氏は、高知県黒潮町での取り組みを紹介。南海トラフ地震の新想定で全国最悪の津波想定34メートルが発表された当時、現地の住民には絶望感が広がっていたそうですが、「大きな災害に立ち向かおうとするからこそ、小さな、今すぐできることから始めることが重要である」と提案。高齢者を中心に「玄関先まで出てくる」ことをゴールとした避難訓練や、「防災リハビリ教室」で高齢者が6分間歩けるようになることを目指す取り組みを紹介しました。

元南三陸町長の佐藤仁氏は、震災当日に町防災対策庁舎で津波に巻き込まれながらも生還した体験を振り返り、「なりわいの場所は様々であっても住まいは高台に」を基本方針として進めた高台移転事業について説明。事前防災の重要性を強調し、「行政には限界があるということを日頃から住民の皆さんにお話をしていくことが大事。自分の命が助かってこそ他人の命を助けることができる」と述べました。

津波復興祈念資料館「閖上の記憶」代表の丹野祐子氏は、東日本大震災の津波で中学1年生の息子を亡くした母親として、語り部活動を続ける思いを語りました。「なかったことにされたくない。その思いでこの15年ずっと歩みを続けてきた」という丹野氏の言葉には、会場全体が静まり返りました。また、阪神・淡路大震災の伝承活動を例に挙げ、「30年を機に語ることをやめた人もいる。東北は15年目、つまり折り返し地点。ここが踏ん張り時」と述べ、継続的な伝承の重要性を訴えました。

河北新報社記者の越中谷郁子氏は、新聞を活用した防災教育の取り組みを紹介。中学生を対象とした「河北防災記者」プロジェクトでは、生徒たちが被災地を訪れて語り部の話を聞き、それを新聞記事にまとめて地域住民に発表する活動を続けています。「震災を実際に経験していない中学生でも、学んだことを伝えることができる。震災を知ることは備えの第一歩」と強調しました。
○総括
最後に、御厨コーディネーターは、「東日本大震災の津波という、この15年間の経験が、時間が過ぎるにつれて深掘りされている。語り部の問題も、避難訓練の問題も、最初の時からあった問題」「この東日本大震災から生まれてきた教訓は、時間が経つにしたがって深掘りされてきた。そして阪神・淡路大震災からこの東日本大震災へ、今度は南海トラフ地震へと、災害の教訓をきちんとつないでいくことが、我々のやるべき最大のことではないか」と締めくくりました。

シンポジウムを通じて、東日本大震災から15年を経て、津波防災の取り組みが着実に深化・進化していることが確認されました。ハード面の整備だけでなく、避難訓練の革新、健康づくりと防災の融合、多様な伝承手法の開発など、新しい防災の形が生まれています。
「人の口から人の心へ」―震災の記憶と教訓を次世代につなぎ、南海トラフ地震など将来の巨大地震に備えるため、継続的な取り組みの大切さが、改めて確認されたシンポジウムとなりました。
アジア太平洋研究賞
アジア太平洋地域に関する優れた人文・社会科学領域の博士論文を顕彰する「アジア太平洋研究賞」事業は、令和8年4月より、アジア太平洋フォーラム・淡路会議から当機構へ引き継がれます。
第25回アジア太平洋研究賞につきましては、3月上旬より募集を開始します。
募集要項や応募方法の詳細については、準備が整い次第、本ホームページにてお知らせします。
21世紀文明シンポジウムの開催
気候変動(変化)が今後の自然生態系や人間社会にもたらす様々な事象や危機について考察し、安全・安心で持続可能な共生社会の実現に向けた諸課題について多面的に議論することにより、21世紀のあるべき文明や文化について考えるシンポジウムを開催します。
令和7年度の開催結果
21世紀文明シンポジウム
「気候変動対策~未来を守るための私たちの選択~」の開催結果
令和7年度21世紀文明シンポジウムを開催
~気候変動対策における「選択」の力を考える~
2月19日(木)、神戸市中央区のラッセホールにおいて「令和7年度21世紀文明シンポジウム~気候変動対策 未来を守るための私たちの選択~」を開催しました。会場とオンライン配信を合わせて約400名の参加を得て、気候変動問題の解決に向けた実践的な取り組みについて、活発な議論が交わされました。
| 日 時 | 令和8年2月19日(木)13:00~16:50 |
|---|---|
| 場 所 | ラッセホール(神戸市中央区中山手通4-10-8) |
| テーマ | 「気候変動対策 ~未来を守るための私たちの選択~」 |
| 参加者 | 400人(来場120人、オンライン280人) |
| 内容 |
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○基調講演
長谷川知子氏による基調講演では、気候変動がもたらす現実を科学的に詳しく説明されました。
長谷川氏は、気候変動による影響が既に「不可逆的」な段階に入っていることを強調。海面上昇や海洋の深海との熱塩循環停止など、現在進行中の現象を具体例として挙げました。2015年のパリ協定における1.5度・2度目標、そして2050年代のカーボンニュートラル実現という国際的目標が、単なる政治的約束ではなく科学的必然性に基づいていること明らかにしました。
カーボンニュートラル達成に向けては、エネルギーシステムの根本的変革が必須である一方で、農業や鉄鋼製造といった、どうしてもCO2排出が残ってしまう産業分野については、直接空気回収(DAC)など補完技術の活用も必要とされました。ただし長谷川氏は「吸収・除去技術に過度に依存してはならず、基本的な気候変動対策の早期かつ大規模な実行こそが優先されるべき」と強調。また、食糧危機と言えばアフリカをイメージするかもしれないが、気温上昇の影響でインドの飢餓進行という深刻な危機をもたらしていることを紹介するなど、気候変動と食料問題の関連性についても専門的に言及し、グローバルな視点での総合的課題解決の必要性を示唆しました。
○パネルディスカッション
パネルディスカッションは、増原直樹氏がコーディネーターを務め、全国でそれぞれの分野を牽引する4名のパネリストが登壇しました。

竹内昌義氏は、建築分野における断熱性能向上を主題に発表。日本の建築物の断熱水準が国際基準に比べて大きく遅れていることを指摘し、具体的な断熱素材の活用方法や補助金制度の実務的な活用法を紹介しました。特に、子どもたちが自らの学校の断熱改修プロジェクトに参加することで、快適な学習環境を自分たちで作る「学校断熱ワークショップ」の重要性を強調し、この取り組みが、グッドデザイン賞の「2025グッドフォーカス賞[防災・復興デザイン]」を受賞したことも報告しました。
前川翔太氏は、福井県坂井市での気候変動教育の先進的取り組みを報告。市職員と大学教員が連携して実施する小中学校での授業が、単なるエコ行動の指導ではなく、子どもたちが「未来をいかに構築するか」を考える「シチズンシップ教育」と組み合わされていることを紹介しました。重要な点として、授業実施後の効果検証を継続的に実施し、課題と解決事例を積み重ねている手法が示されました。

木原浩貴氏は、地域新電力事業と気候コミュニケーションについて発表。心理学的観点から「人はなぜ気候変動問題を理解しながらも行動に踏み出せないのか」という根本的な問いを提示しました。認知的不協和(矛盾する情報に直面した際の思考停止)の概念を導入し、脱炭素社会を「負担」ではなく「社会のアップデート」として捉え直すことの重要性を強調。丹波・丹後地域でのエネルギー事業を防災やスポーツ支援などの地域課題と有機的に組み合わせることで、包括的な価値創出を実現している事例を紹介し、令和7年度には、これらの取り組みが環境省の「脱炭素先行地域」に選定されたことも報告しました。

安福武之助氏は、「環境に負荷を与えないで、美味しい日本酒を作る」経営哲学を強調しました。この一見矛盾する目標の達成に向けて、SDGsへの先進的な取り組みを実施。杜氏(とじ)から社員による酒造りに転換を迫られる中で、水やエネルギーの使用及びCO2排出の削減と売上拡大の両立(デカップリング)に成功しました。気候変動の影響を受けやすい水資源確保の課題に直面しながらも、持続可能な事業運営に向けた継続的な創意工夫を行っています。

パネルディスカッション終盤では、各パネリストから参加者へのメッセージが発信されました。
竹内氏は、「脱炭素化を『誰かが対応してくれるだろう』と受動的に考えるのではなく、個人の投資判断を通じた『暮らしのイノベーション』が重要である」と訴えました。断熱改修にはお金がかかるが、健康と快適性、そして経済的リターンの面でも必ず回収できるとし、希望を持って自分事として取り組むことを強調しました。
前川氏は、気候変動問題は、行政だけでは解決できない課題であり個人の協力が欠かせないこと、そして坂井市の「寄付市民参画制度」のように市民からの提案が事業化される仕組みの重要性を示唆。「皆さんが持つその思いは他の人に伝播する。まずはこの思いを持ち続けることから始めよう」というメッセージを投げかけました。
木原氏は「限られたものの中からどう減らすか、どう我慢するかではなく、『こういう選択肢があるよね』という選択肢そのものを作っていくことが重要」と強調。具体的には、酒屋で「このお酒置いていないの?」と聞いてみるように、学校の電気を再生可能エネルギーにする選択肢がないなら、周囲の人や議員、教育委員会と話しながら選択肢を作ろうとアクションすることを提起しました。
安福氏は「サステナブルであることはコストではなく、価値であり、選ばれる理由である」「ブランドは企業の姿勢である」と述べました。企業経営の観点から、消費者が環境配慮型商品を購入したいという意思は多く見られるものの、実際の行動に繋がりにくい現状があり、この態度と行動のギャップを埋めることが課題であるとして、サステナビリティを新たな付加価値として社会に提示していくことの重要性を示しました。
○全体総括
最後に増原コーディネーターは、「多くの人が『誰かが解決してくれるだろう』という漠然とした期待を持ちがちであるが、脱炭素社会の実現は、足元からの断熱改修、持ち続けた思いの他者への伝播、新しい選択肢の創造、そして環境配慮型商品への投資という、一人ひとりが積み重ねるアクションによってのみ可能になる。これは決して「我慢」ではなく、より快適で健康的で、そして経済的にも返ってくる「賢明な選択」であることが本日の議論を通じて明らかになった」と総括しました。


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